|駐停車禁止場所や夜間に駐停車している車に追突!
駐停車している車両への追突事故は相応の頻度や件数で発生しています。
過失については、追突した車の前方注意義務違反や運転操作不適切等によって発生したという因果関係が成立するので、基本的には追突した側が100%の責任を負います。
それでは、駐停車禁止場所で駐停車していた場合でも、追突車側の過失が100%になるのでしょうか?
駐停車禁止場所に駐停車して追突された場合、追突された車両にも一定の過失が認められる可能性はあります。
しかし、駐停車禁止場所に駐停車していた事実だけで、「駐停車していた車にも過失あり!」と単純に決めつけることにはなりません。
保険会社としては、「駐停車禁止場所に駐車していた!判例タイムズでの過失は追突した側に10%を減算修正するので<90%:10%>で、はい決定~!」と言いたいところですが、重要なのは駐停車違反と追突事故に因果関係があるのかが問われることになります。
極端な例ですが、駐停車禁止場所ではなくても、夜間に街灯もない暗い場所で停車していた車両が追突された場合には、過失が認定される可能性は高くなります。
もう一方で、たとえ駐停車禁止場所であっても視界もよく、さらに非常点滅灯で合図を出しており、また道幅も広い直線道路に停車していた時に追突された場合は、駐停車違反はしていても後続車が前方を注視して運転していれば追突事故は容易に回避できたはずです。
追突された車両に駐車禁止場所だったから!の理由だけで過失を認めるのは、実務的には無理があるといえるでしょう。
但し、法の規制(法44条、45条)に反して車両を駐停車させることで、他の交通の妨害になって事故発生の危険を高めている点がある場合は考慮しなければなりません。
トンネル内やカーブの途中、道路の曲がり角5m以内、坂道の頂上付近等では駐停車車両の発見は容易ではありません。
追突した車両に10%程度の減算修正は起こり得る範囲になるでしょう。
|降雨や濃霧の天候状況によっても過失は問われる?!
「判例タイムズ」で認定している修正要素に降雨や濃霧、夜間で街灯もなく暗い場所等の視認不良の場所に駐停車していた場合には、追突車から駐停車している車両の発見が容易ではないとの理由で、追突した車両に10%を減算修正すると記されています。
つまり、暗い場所はともかく降雨や濃霧時に駐停車して追突された場合は、過失責任が生じます!という意味になります。
そして、駐停車する場合は非常点滅灯を灯火していることが前提になっていますので、不灯火の場合は追突した車両に10%、状況によっては20%減算修正される認定になっています。
非常灯等の不灯火については修正要素として明記されているので、その上で更に降雨や濃霧、夜間で街灯もない場所で駐停車している車両が追突されたら、その状況だけで過失が生じます!との主張も可能になります。
天候等の自然状況が「視認不良」という項目で、自動車事故の過失割合に影響を及ぼすという理解になってしまいます。
「過失」とは簡潔に言うなら人為的な過誤や人が成す行為、不注意による過ちなので主体は人のはずなのです。
「視認不良」と明言された、自然条件である降雨や濃霧の場合に駐停車すると過失が生じますと、修正要素として賠償の割合に影響するのは妥当なのでしょうか?いささか疑問ではあります。
「視認不良」の天候や場所で、車両の灯火を怠った事で事故が発生した場合は過失として認定します、と言うなら納得できるとは思うのですが・・。
|夜間に駐停車する場合は灯火の当然が前提です!
「車両は夜間に道路にあるときは前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない」(法52条)とされています。
駐停車車両が非常点滅灯等を灯火せず、三角反射板の設置等の警告措置を怠って駐停車していた場合は、追突車両に10%~20%の減算修正するのが相当と判断されています。
追突車両に軽度の前方不注視があることは、基本の過失割合に含まれていますが、著しい前方不注視や酒酔い運転、運転操作ミス等がある場合には、過失割合が10~20%加算されることになります。
この他に、泥などによる汚れ等によってテールランプに法定の照度が無い場合も、後続車が前方車両の動静を察知しにくくなるため、後続車の過失割合は昼間ですと10%、夜間の場合は危険度が高くなるので状況によって10%~20%減算修正されます。
なお、制動灯の故障やライトの点灯されていない場合等は、法24条違反に至らない場合でも独自の過失になると解されています。
|駐停車方法が不適切な車両への追突事故
「停車が可能な道路であっても、駐停車の仕方として道路の左側端に沿い、かつ他の交通の妨害とならないようにしなければならない」(法47条1項、2項)と規定されています。
幅員が狭い道路や追い越し車線、幹線道路等の交通量が多い地点に駐停車した場合には、他の交通の妨害となり、事故発生の危険を高めることは明らかです。
よって、左端に寄せないで駐停車していた車両に追突事故が発生した場合は駐停車方法が不適切として10%ないし20%が追突車両に減算修正されることになります。
その一方で、走行車線上において故障等で動かなくなり、退避も移動も物理的に不可能になった為に左端に退避できずに追突された場合は、追突された車には非がないとして追突車両に10%の加算修正をしています。
追突した車両から見たら、故障で動けない退避不能車両だったのか、駐停車方法が不適切な状況にあったのかを事前に知ることはできません。
追突事故が起きた時に、被追突車の状況によって追突車両の過失が減算修正される、あるいは10%加算される状況は追突車両側の視点からみたら納得できるのか?と考えてしまいます。
個人的にも「判例タイムズ」の理論構成や認定基準や根拠の説明等、一定水準で納得感はあります。
但し、一部ではありますが「この事故で、この過失割合は・・?」とか、「過失割合の認定理由がこれかぁ~?」など、修正要素の説明について首を傾げる項目が数は少ないですが無い訳ではありません。
数少ない首を傾げたくなる過失認定のひとつになります。
|追突事故の過失割合に関した基本的な考え方!
とは言っても・・追突事故は、追突した車両の「車間距離不保持」や「前方不注視」に尽きるのも確かです。
法24条違反と言われる「理由の無いブレーキ」があったとしても、また夜間や駐停車禁止場所に停車していたとしても、追突事故が起きた場合は基本的には追突車両の過失100%が社会的な常識になっていると思います。
「判例タイムズ」では、駐停車禁止場所において追突された場合、状況によっては追突された側にも何らかの過失が認定されているケースがあります。
保険会社も、追突事故を受け付けた担当者が被害者側に「道路の曲がり角から5m以内の場所に駐車していたので過失が10%あります」と説明しているのを聞くことがあります。
しかし、駐停車禁止の罰則と追突事故は別問題であり、駐車禁止の場所であっても停止している車両を回避する義務は動いている車両に課せられるのが基本です。
市内で車を運転していると、「こんな場所にこんな停め方して、擦られても文句言えないかも・・」と思う事がありますが、この場合でも動いて擦った側に100%の責任が生じると解した方が良いでしょう。
但し、トンネル内やカーブなど見通しの悪い場所に駐停車している車両、または夜間に駐停車表示灯を点灯させていない車両への衝突は、駐停車車両にも過失が生じる場合がありますが例外的と認識すべきでしょう。
|駐停車禁止場所に停車していて追突された裁判例
片側2車線ある直進道路上の第一車線の左端に停車していた被害車両に追突した事故がありました。
被害車両が停車していたのは、駐停車禁止場所でしたが事故当時の交通量はそれ程多くはなく、第二車線の通行には全く支障がなかった状況。
事故時は夜間であり、被害車両は駐停車表示灯を点滅させていませんでしたが、事故現場手前の50m地点では、加害車両から前方の被害車両の後部がはっきりと確認できる状況で、被害車両への追突の回避は容易であったことが推認されました。
よって「高速自動車国道及び自動車専用道路以外の道路において後方50mの距離から当該自動車が明りょうに見える程度に照明が行われている場所に停車し、若しくは駐車しているとき」(道交法施行令18条2項)に該当することで、被害者に過失を認めることはできないとして、保険会社が主張する過失割合30%に対して過失0%の判断をされた裁判があります。
加害車両が、居眠り運転状態の可能性があったとしても、駐停車禁止場所という理由だけでは過失がある!と主張するのは厳しいという事例です。
但し、他の事例では駐停車禁止場所に駐車していた大型トレーラーに二輪車が追突した事故では、駐車していたトレーラーに35%の過失を認定した裁判もありますので、状況に応じた個別判断にはなります。
しかし、基本的には追突した車両の前方不注視などが原因であることに尽きるのです。
違反であったとしても「駐停車している車両に衝突した場合は動いていた側が、ほぼ全責任を負う」という、当然の結論になる事を常識として認識頂きたいと思います。