|高速道路上で驚くべき光景!落下物が転がっている
高速道路の本線上に、先行車両の荷台等から落下した物が落ちている場合があります。
主要な高速道路上での落下物の件数は、国土交通省資料等から毎年若干の変動はありますが平均して年間31万件~34万件にもなります。
1日あたりにすると、約850件以上の物が高速道路上に落ちていることになります。
落下物で一番多いのは、ビニールシートや幌などの布類、そしてタイヤや建築資材になります。
珍しい物では、冷蔵庫や仮設トイレなど衝突したら大惨事になる様な大型の落下物まであります。
高速道路においては、高速での走行が認められているので、落下物に衝突しなくても運転者が適切な回避行動をとることができず、そのために事故が起こることは十分にあります。
したがって、ハンドル操作などによって落下物との接触は免れたが、その結果として他車と事故が起きた場合でも、落下物の存在が事故発生の原因として因果関係が認められる限り、衝突した場合と同様に積み荷を落とした車両にも過失を問う事になります。
|落下物と衝突した場合の過失割合は?
落下物の大きさも、遠方から視認できる大きさもあれば接近するまで発見が困難な物もあり、また車線を塞いでしまい落下物に気づいた車両は停止するか、乗り上げるしか回避手段がない場合も起こります。
過失割合の基準として、落下物については比較的近距離になって初めてその危険性を認識できるもの、接触によりハンドルやブレーキ操作に影響を与えられる物(物理的に一定の大きさのある物や、滑りやすい物等)、衝突した後続車に軽度の前方不注視があることを前提としています。
落下物が油等の危険性が高い場合や、例えば200m以上手前から落下物を容易に発見できる様な大きさの場合には、修正要素として考慮することになります。
そして高速道路においては、一般道に適用される「積載物転落等防止義務」(法71条4号)のほか、貨物の積載状態を点検する義務(法75条の10)が課せられているので、高速道路上に積載物等を落下させた前走者の責任は、一般道の場合と比較しても格段に重くなります。
後続車にとっても時速80kmを超える高速度で進行しながら、落下物の危険性の程度を即座に判断し、回避するための適切な行動はかなり困難かも知れません。
したがって、後続車の前方不注視やブレーキ・ハンドルの操作不適切等の安全運転義務違反の過失より、高速道路上に積載物等を落下させた先行車両の過失の方が大きいということになります・・が、それでも「判例タイムズ」では基本の過失割合を<積載物を落下させた車両60%:40%落下物に衝突した車両>という設定をしています。
修正要素としては、追越し車線上に積載物を落下させて、その落下物に衝突した車両が二輪車の場合10%を、減算修正する事になります。
他にも、落下物が油等の危険物だった場合は、落下させた車両に「著しい過失や重過失」を認めて、落下物と衝突した二輪車に10%~20%を減算修正します。
|積載物を落とした車両側の損害賠償請求はできるのか?
「判例タイムズ」の設定による、積載物を落下させた車両の過失60%は「少し緩くありませんか?!高速道路上の落下物です!転落防止義務違反にも抵触しています、もう少し過失が大きくても・・・」と思ってしまうのです。
その理由として、積載物を落下させた車両の過失が60%ということは、落下物と衝突した後続車に40%の賠償責任が生じるということです。
理屈上では、落下物と衝突した事で価値が減少した場合は、積載物を落下させた車両は40%の損害賠償の請求が可能という事になります。
荷物を落下させた車両側の主張としては起こり得る範囲かも知れません?!
しかし、車載物は落下した時点で損壊しており、既に財物としての価値は無くなっている可能性は大きいと思われますが、落下した時点で価値が残存していた場合は少~し面倒かも知れません。
但し・・ですが、積載物が落下した時点でも財産的価値が有った事を証明しなければならない義務は請求者側にあります。
落下物に衝突した車両の損害は、落下させた車両の対物賠償保険で60%を填補される事になるのでしょうが、積載物を落下させた車両が特定できないケースも多く、実務的には自損事故扱いで処理される場合が多い。
落下物と衝突を避けた場合でも衝突した場合でも、他の車両と多重追突や衝突事故になったことによる、過失割合や賠償の問題が複雑化する事になるでしょう。
積載物を落下させた車両と、その落下物と衝突したか避けた車両との関係、落下物と衝突して多重追突になった場合の過失や、落下物との衝突を避けて他の車両と事故になった場合など、考えただけでも大変な状況の事故になります。
高速道路では積載物を落さない様に管理の徹底が必要になります。
罰則規定も過失割合も、現状では軽い!と感じている識者も少なくない様です。
|高速道路上の「歩行者」と衝突した事故の過失割合は?
高速自動車国道17条1項において「何人もみだりに高速自動車国道に立ち入り、または高速自動車国道を自動車(自動二輪車)以外で通行してはならない」と規定されているので、高速道路上に歩行者がいる事は、ほとんど想定していません。
しかし、現実的には起こり得る光景であり範囲となります。
高速道路上での事故や、車両のトラブル等で乗車していた車から降りた時点で「歩行者」になる!という事です。
|本線車道を歩いている歩行者と衝突事故
高速道路の本線車道上の歩行者が、車両や自動二輪車に衝突や接触された場合を想定して過失を判断します。
歩行者が車道を車両と並行に歩行しているのか、横切っているのかは問いませんが、歩行者が路肩等にいた場合は対象外になり、過失は問えない可能性が高くなります。
それでも、基本的には高速道路上にいたこと自体が、歩行者の重大な過失となりますので、相当大きな過失相殺がされるのはやむを得ないでしょう。
但し、高速道路の見通しが比較的良いことを考慮すると、昼間であれば自動車の運転者側も歩行者を発見することは必ずしも困難ではないと考えられます。
そこで、車両側にも前方不注視又は、ハンドル・ブレーキ操作の不適切等の安全運転義務違反(法70条)の過失があることを前提として、歩行者の過失相殺の割合を<80%>と認定されるのが基本になります。
歩行者の基本の過失相殺率が大きいので加算修正はしません。
また、自転車の場合でも歩行者と同様に高速道路上にいることが予想するのが困難なので、高速道路の本線車道上に侵入した自転車が衝突された場合についても<80%>の基準が準用されることになります。
|駐停車している車両の近傍の歩行者と事故
高速道路上に歩行者がいる事は法律上想定されていません。
しかし、高速道路上の路肩等に駐停車している車両がある場合は、非常措置(例えば停止表示器材)の設置等のために、駐停車車両の近辺に人がいる可能性を容易に察知することが可能と思われます。
よって、基本の過失相殺率は<40%>となり、修正要素として停止表示器材を設置する際の事故は、歩行者側に20%の減算修正をすることになります。
この様な場合には、歩行者に有利に判断すべきと考えられており、同様の理由により高速道路上の工事現場付近にいた工事関係者の事故にも適用されるとしています。
また、駐停車車両の同乗者についても、車外に出る行為自体が極めて危険であることより、同乗していた自動車が火災や爆発等の危険がある場合等、車外に出ることがやむを得ない状況であることを除いては、原則として<40%>の過失相殺が適用されることになります。
なお、駐停車車両からの近傍の距離に付いて、道路の状況や駐停車の態様等により一概にいえませんが、概ね10m以内と解されています。
対歩行者との事故で車両が損壊した場合は、歩行者の過失分に対して損害賠償請求は理論上可能という事にはなります。