|歩合給営業職の休業損害を算定する基本とは
企業や組織に所属して、職種として営業をしているサラリーマンは少なくありません。
給与体系が営業結果に応じた歩合制をとっている場合でも、収入のほとんど全てが歩合給というケースや、固定給と営業成績の二本立ての給与になっている場合もあるでしょう。
また、二本立ての給与でも、固定給が多く営業成績の反映が少ない場合や、その逆に営業成績が占める割合が高い場合もあります。
実際に事故にあって協議を経験した職種としては、住宅メーカーの営業、化粧品や薬の営業、浄水器や掃除機等の家電や電化製品の訪問販売員もいました。
しかし、事故の被害者が歩合制の営業職といえば、圧倒的に多いのが生命保険の外交員でした。
ここでは活動範囲も広く、自動車での移動も多いことで交通事故にあう確率も高いかも知れない事例として、生命保険外交員に関する休業損害や収入減収の補償等について基本的な認定や考え方を記しています。
生命保険外交員以外の他の歩合制営業職について、基本的な認定等はほぼ同様の方法等で認定されることになるはずです。
給与が歩合給だけではなく固定給が支給されている場合、固定給部分は一般的な給与所得者に準じた認定をすることになるでしょう。
|歩合制給与所得者の休業損害の算出
一般的には、歩合性の収入は給与所得者のようにほぼ毎月同じ額面の収入ではない場合が多く、そのために基礎収入について基本的には事故前の1年間の給与額から平均化した金額を求めることになります。
月によっては所得金額に相当の変動があり、事故前年度の収入金額から1日あたりの基礎収入を算出するのが妥当ではないと判断される場合は、大よそ2~3年分の収入金額から1日あたりの基礎収入を求めることも起こります。
歩合制の給与であっても、休業損害認定の基本は、「1日の基礎収入✕休業日数」で計算されることになります。
|生命保険外交員の営業活動に与える影響は?
事故による受傷程度によっては休業する事もありますが、ケガで最も多い「むち打ち症」などの軽傷の場合、活動の合間や営業時間をやりくりして通院をされる方が多い様です。
生命保険の外交員に限らず給与体系が歩合制による営業職の損害認定や協議は、訴訟まで進む様なレベルで難航することもありますが、ほとんどは協議が難航しないで比較的スムースに進む場合の方が多かったと思います。
スムースに協議や示談が進んだ場合は、大きな理由としては営業成績が落ちなかった!その結果として、収入がさほど下がらなかったという状況。
生命保険会社によって給与の支給体系が違うのかも知れませんが、ある生命保険会社では、例えば1件の保険契約が成立した場合の収入について一時払いの契約は別にして、歩合手当が1年間前後の期間にわたり分割されて支払われる様です。
これは、継続率つまり契約して1回~2回保険料が支払われた後に、契約が失効してしまう事に対する、保険会社側の対応策であるのかも知れません。
営業員側からみても、分割された報酬が月を追う毎に重なってくるので収入が安定するメリットもあります。
そう考えると、1ヶ月や2ヶ月の単発的に営業不振に陥っても収入は大きく変わることは無いので、規定に沿った休業損害の認定で特段の問題が生じないことになります。
余談です、営業に関して素人考えですが営業活動は地道にコツコツと積み重ねたものが成果に結びつくものと思っています。
ある生保外交員は「家庭の事情によって私的に多忙であったりして、活動が思う様に行かない場合は結構ありますが、それによって契約件数がダイレクトに影響を受けるのは稀で、日頃の活動が出来ていれば収入にも大きく響かない。今回の様な事故を、顧客が心配してくれて逆に成績が上がった」という方もおりました。
損保においても、日頃の代理店の営業活動等を知っていますので、事故によって一時期に活動が落ちたからといってすぐ成績に響くとは思っていないということもあります。
営業の極意を極めて、初回の面談や訪問時で契約してもらえる様な「初訪即決」ばかりの営業マンなら話は別ですけど・・・。
|生命保険外交員や歩合給営業職等の休業損害認定
休業損害の認定や協議が難航する場合は、受傷により痛みが強く思うように営業活動が出来なかったために給与が下がってしまったと主張されるケースです。
思うような活動は出来なかったかも知れませんが、営業活動をされていた場合は休業はされていない事になります。
休業により損害が生じた証明は、勤務先が作成する休業損害証明書による休業日が損害の支払を認める唯一の根拠になります。
自賠責保険の規定として休業損害証明書が提出されている場合は、外交員の休業損害は休業日数分しか認められません。
休業損害の計算の仕方です。
生保外交員は給与所得者の様な「源泉徴収票」は無く、代わりに「報酬・料金・契約金及び賞金の支払調書」と呼ばれる資料で認定することになります。
計算式です。
(報酬・料金・契約金及び賞金の支払調書-必要経費)÷365日=休業損害日額
休業損害日額✕休業損害証明書による休業日数=休業損害額
つまり、痛みを我慢して営業活動をしましたが結果として売上げが下がった場合、下がった部分の休損(休業損害といえるのかは疑問)は補償の対象にはならないのです。
損害保険会社としては、自賠責保険で営業上の売上が下がった分を認定する規定がないこと、交通事故による負傷と営業成績が下がったことの因果関係が証明出来ないことで、休業日数分以外の休業損害は認めるのは困難だと判断するしかないのです。
仮に、事故にあわない万全な体調や状態で営業活動が出来たからといって、必ずしも営業成績が上がるとは限らないとの考え方が基本にあるために、事故と営業成績の下落が因果関係あり!とはいえないという事です。
そして、執拗に損害を主張される場合は、通常の損害の立証書類の他に分割されて支給されている様な、歩合い手当を証明する書類の提出を依頼することになると思います。
|生命保険の外交員の休業損害に対する最高裁判断例
生命保険外交員が休業損害の請求について争った事例がありました。
下級審は通院期間も休業していたと認めていましたが、最高裁では休業期間は所属生命保険会社が休業扱いをしていた日数のみを休業日数と認め、通院期間を含めそれ以外を認めませんでした。(平成7年10月24日最高裁判決)
生命保険の外交員は主に歩合給なので収入を得るためには工夫、活動能率や高効率化が求められると思いますが、通院などで活動の一部や能率が下がった部分や、高効率化のための労力等の評価が認められなかったことになります。
|個別の状況によっては請求方法の工夫も検討すべき!
実務的には、ある程度の休業損害額を請求する方法は別にあるのですが、大逆転する様な方策ではありません!
ただ、個別的な状況や事情によっては・・と但し書きが必要になりますが、例えば、生保外交員が兼業主婦だった場合、空き時間や営業の合間に通院されているのですから、定額✕通院実日数の認定が可能になります。
更に自賠責保険の規定でも、被害者の傷害の態様等を勘案して治療期間の範囲内で実治療日数の2倍を限度として認定することが出来るとされています。
休業損害証明書を提出した場合と、定額認定✕通院実日数(2倍を含めて)との金額を比較して高い方の金額での認定を狙うのも方法のひとつとして可能と思います。
休業したので、即座に休業損害証明書提出!と事を進めないで、証明書を提出しない「定額認定」の方法も検討して良いかもしれません。
他にも個人的な見解にはなりますが、例えば事故前6ヶ月や1年位の期間を遡って、給与明細書など収入の証明が出来る書類を準備し、その証明書類と比較して事故後は明らかに営業成績が下がっていたとしたら、減収分全額ではなくても割合認定に的を絞った請求も可能と思います。
割合認定に関しての協議を、損保の担当者に申し出てみるのもひとつです。
損保側は営業社員が事故によってケガをした事と、それによって収入が減少したことと相当因果関係がない!といい切れない状況であることがポイントになると思います。