|私有地や私道では道路交通法の適用はない?!
契約者からの事故報告に、少なくない割合で駐車場内での事故が含まれています。
私有地や駐車場内の事故は、道交法等の法律が及ばないのか?賠償はどうなる?過失割合は全て50%:50%になると聞いたがホント?・・という質問を受けることが多い。
他にも、駐車場管理者による施設内の指示に従わなかった事で起きた事故はどうなるのか?
更に、私有地の中で無免許運転や飲酒運転をしても処罰の対象にならない!というのはホントなのか?等々・・結構な割合で、誤解や誤認されている内容の話を耳にすることもあります。
自動車の運転に関する規制として道路交通法(以下道交法)があるのは知っての通りです。
道交法2条1号で道路の定義として、「道路」とは、道路法や道路運送法における道路や自動車道のことで、公道のことを示しています。
更に、条文の後段に「一般交通の用に供するその他の場所」と規定されており、不特定多数の車両や人が自由に出入りし、通行できる状態の場所を指している文言も記されています。
その意味では、私有地であっても使用方法や、状況によっては「道路」とみなされるということです。
また道交法2条17号では、運転について「道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という)をその本来の用い方に従って用いることをいう」と規定しています。
「道路において」がポイントになって、その道路で「運転」することが道交法の規制対象になるということです。
逆に道交法2条1項による「道路」に該当しなければ無免許運転や、酒酔い運転等も道交法自体が適用されないことになります。
しかし、私有地であっても「道路」と認められた場合は、公道と同様に道交法が適用されて、例えば無免許で運転すると、無免許運転の罪が成立することになります。
つまり、私道や私有地だから道交法などの法規が及ばないのではなく、使用方法や使用されている状況等によって道交法が適用されるのか、適用外なのかになるのです。
|道路交通法が適用になる私有地の代表例は大型商業施設の駐車場
私有地であっても、不特定かつ多数の人や車の出入りすることが可能な場所の代表として、大型のショッピングセンターや一般の駐車場など公道とつながっている通路は道路とみなされます。
実態として、車両や人の出入があり、タクシーや送迎車両などの公共または準公共の交通が利用しているという状況によって、道交法が適用されるということです。
道交法が適用されるのですから、シートベルト未装着や携帯電話をかけながらの運転も取締りや処罰の対象になります。
道交法が適用される私有地の中で、無免許運転をした場合は、30万円以下の罰金または1年以下の懲役(初犯の場合は罰金刑)、1年間の免許取得が出来なくなるという処分になりますし、程度によっては交通違反の前科もつくことになります。
反面、公道ではなく公道と隔離されていたり、不特定の車や人が自由に出入りが出来ない様に管理されている場所、例えば自動車教習所やサーキット等は、道交法の適用外になるという事です。
|コンビニの駐車場で事故が起きた場合は?
大型の施設ではないが町のいたるところにある、不特定多数の人や車が利用する、一般的なコンビニの駐車場で事故が起きた場合はどうでしょうか?
道交法では、交通事故が発生した時の対応について、ケガをした被害者がいる場合は直ちに救護等必要な措置をとって、警察に連絡をしなければならないと規定しています。
しかし、この道交法が適用されるのは、「道路」での事故になります。
事故が起きたコンビニの駐車場が「道路」に該当するか?しないか?によって、道交法違反が成立するか否かが違ってきます。
裁判例としては、平成14年10月23日ラーメン店の駐車場で起きた事故の大阪高裁判決や、東京高裁の平成13年6月12日と平成17年5月25日の判決等いずれもコンビニ駐車場で起きた事故が知られています。
それぞれの判決は、概して「道交法の適用のある私有地」と判断していますが、微妙に異なる部分もあります。
保険会社は判決からどの様に判断しているのでしょうか?
多くの保険会社は、コンビニの「白線で区切っている駐車スペースは道路外」だが、「通路は道路」として事故の対応をしているのがほとんどだと思います。
極端な例になりますが、駐車スペースに後退して入って、今まさに車止めブロックで停車する直前の状態の時に、コンビニの店舗から出て来た人と接触してケガをさせた場合などですが・・・
コンビニ駐車場の通路部分については「道路」として認めたものの、駐車区画については「道路」ではないとの判断が可能になるのです。
この場合、駐車区画で発生した事故なので、道交法のいう「道路」で発生したものとは言い切れないため、法的には救護や警察への報告義務も発生せず、違反もないと判断されることも起こり得る可能性があります。
コンビニの駐車場内で中学生と衝突してケガをさせた訴訟で、平成17年5月25日の東京高裁判決で同様の判断がなされました。
道路交通法は道路での事故を対象としている法律なので、道路外で発生した事故については対象外となり、法律上では交通事故とは扱われない事になります。
しかし、通路であっても道路とは認められない場所もあります。
例えば「月極駐車場」内での事故の場合、賃貸借契約を締結している限定された人だけが利用する場所であり、「不特定多数の人や車両が自由に出入りや通行できる場所」とはいえないという理由で、道交法の適用は受けないと平成14年10月21日東京高裁判決では判断されました。
「道路外」で事故を起こして、道交法の適用外で法的処罰が科せられない場合でも、不法行為による民事上の損害賠償義務は無くなりません。
事故が「道路外」であっても、被害者がケガをした場合は救護措置は当然ですが、損害を与えたことで警察への連絡等、通常の事故対応は必要になります。
|駐車場などの私有地で交通事故が起きた基本的な過失は?
一般的に交通事故というと、車同士が交差点で衝突した、自転車や人が道路や横断歩道で衝突した状況を思い浮かべると思いますが、ショッピングセンターなど大型駐車場の通路やコンビニの駐車場などの私有地での事故も相応の件数が発生しています。
保険会社によって若干の違いはあると思いますが、某保険会社の社内統計では保険金を支払った全部の車両事故件数のうち、駐車場内などの私有地で発生した事故は、例年26%~28%前後と約30%の割合を占めているようです。
私有地であっても、道交法で定義する「道路」に該当する場所であれば道交法の適用があることは前述の通りです。
不特定多数が出入りや往来するショッピングセンターや一般の大型駐車場などでは、保険会社も原則として「判例タイムズ」や道交法を準用させて過失割合の判断を含めた事故対応をしています。
駐車場の中では、駐車車両が駐車スペースに入る場合や発車するなどの特殊性はあるものの、通路の交差点においては通常の道路の規制と本質的には変わらないというべきなのでしょう。
そして、駐車場の中であっても交通事故を起こせば、賠償問題が発生します。
賠償請求するにしても、または支払う場合においても負担する金額を確定させる過失割合や損害認定等に関して根拠が必要になるのは公道での事故と同じです。
その根拠としては、例えば通路が交差する場所に駐車場の管理者や管理会社などが何らの注意や規制をしていない場合は、公道における過失割合の認定基準を準用するのが妥当という考え方もありますし、「判例タイムズ」をそのまま適用させる方法もあります。
例として、直進車両同士が信号機のない幅員等が同じ条件の公道の交差点で衝突した場合では、左方車に優先性があるとの原則を適用させて<左方車40%:60%右方車>が基本的な過失割合として判断するということになります。
一方で、駐車場という車両を駐車させる目的が優先される特殊な環境にある状況下では、公道における事故の過失割合を準用するのは適さない事故形態もあるという事です。
保険会社などが過失割合の認定に使用している「別冊判例タイムズ」も、駐車場通路の特殊性を考慮した判断を
しています。
例えば、駐車スペースに後退で駐車させようとした時に、通路を走行して来た後続車両に逆突(後退して追突)した場合は、後退により逆突した車両の方が過失は少ない被害事故になるのです。
駐車場の特性から判断された過失割合には、違和感があるというケースも無いわけではありません。
そうなると、公道での過失割合を準用しての主張をする担当者も出てきます。
「判例タイムズ」による駐車場内における過失割合の認定基準と、公道での基準を準用した場合では、認定や過失割合の数字に違いが出るケースも出てきます。
私道や駐車場内の事故における過失割合の交渉は、損保担当者の交渉力やセンスによって導き出される結論が違ってくる場合もあります。
例えば、交差する通路で直進車同士の出合い頭の衝突事故が発生し、契約者側が相手車両から見たら左方車になるが、相手方車両側の方がメインの通路と判断される場合です。
当然ですが、この場合は公道における左方優先を主張して過失が小さくする主張をしますが、契約者車両が逆の場合は「判タ」の駐車場内では左方優先は適用しない主張をするでしょう。
これは、弁護士が依頼者の立場や主張にあわせて、法解釈を行う事と同じかも知れません。
それでも、駐車場内での具体的な事故状況別の基本的な過失割合は知っておいてもいいと思います。