「政府保障事業」は交通事故の被害者を救済できる制度なのか?

交通事故が起きた

|政府の自動車損害賠償保障事業制度とは?
交通事故にあった場合、全ての加害者が保険を使用して対応するのを含めても、誠意ある補償をしてくれるとは限りません。


まして、加害車両が事故現場から逃走してしまう「ひき逃げ」をされた場合は、加害者を特定することが出来ず損害賠償を請求する相手が不明という事態も起こり得ます。


任意の対人賠償保険も、共済を含む自動車損害賠償責任保険も、加害者である保険の契約者に損害賠償請求をすることで保険金を支払ってもらえるのです。


その加害者が不明なのですから、請求先も不明ということです。


また、自賠責(共済)の期限が切れていたり、保険がかけられていない「無保険自動車」が加害車両だった場合も、ケガをしたり後遺障害を負った被害者は、保険では救済されません。


仮に加害者が特定できる場合は、裁判で賠償金額を請求する事は可能ですが、そもそも自賠責保険にさえ入っていない状態や、ひき逃げをする様な加害者に賠償金の支払能力があるはずもなく、加害者が自力で支払ったということを業務経験上でも一度も聞いたことがありません。


裁判で勝って、賠償命令が出たとしても加害者に財力が無ければどうすることも出来ないということです。

この様な被害事故が起きて、加害者側から賠償を受けられない場合、被害者に最低限度の補償をする制度が政府の「自動車損害賠償保障事業(以下「政府保障事業」)」です。

政府保障事業は、自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号(抄))に基づき、ひき逃げ事故や無保険車との事故、または盗難車による事故などにより自賠責保険や共済から補償を受ける事ができない被害者に対して、政府がその損害を加害者に代わって立替払いをしましょう!という制度なのです。


|政府保障事業が補償する範囲と問題点

政府保障事業による支払限度額や補償される項目は自賠責(共済)と同じですが、自賠責(共済)とは異なる点も多くあります。


被害者が健康保険や労働災害保険、その他の社会保障制度などで救済される見込み額を含んだ給付金が有る場合や、加害者から一部でも損害賠償金を受けた場合は、その差し引いた差額分が支払われることになります。

そして、損保社員の多くが感じている、ここが政府保障事業の問題点として2つ!


ひとつは、保険金(保障金)が支払われるまで、かなりの期間が必要ということです。


自賠責保険では、請求を受け付けてから保険金が支払われるまでの期間は、平均で1ヶ月以内が目途になります。

対して、政府保障事業では平均で5ヶ月以内、例えば無保険車との事故等では7ヶ月以上かかったケースもありました。

保険金(保障金)を支払う期間が長期に及ぶ理由として、政府が被害者に保険金(保障金)を支払った後、無保険車などで事故を起こした加害者に求償を行う必要があること、他法令に基づく給付の有無を確認するなど、自賠責と比べて事実確認等の手続が多いためといわれています。

しかし、被害者の救済事業であることが主目的であるなら、理由はどうであれ支払いまで相応の期間を要するのはどうなのでしょうか?!制度の主旨と反しませんか?・・と思ってしまいます。

ふたつめとして、治療が終了するまでの治療費等の費用は被害者が立替える!つまりケガが治るまでの治療費は被害者が負担しなければならない事です。

そして治療に要した費用についても、自賠責保険では健康保険での診療も自由診療でも治療費として認められますが、政府保障事業では全ての治療費は健康保険の点数に換算しての認定および填補になります。

仮に健康保険が使用できなくて自由診療で治療した場合は、健康保険を使用した場合に換算して認定されるので、結果として治療費は一部しか保障されないことになります。

保障金の支払い期間が長く遅れることもあって、被害者の中にはケガが完治していないが治療費の立替負担が大きくなって、途中で治療を終了したケースもありました。

|自賠責保険との共通点や相違する項目について

過失相殺や過失割合について、自賠責は被害者救済が目的のひとつであるために被害者有利に扱いますが、政府保障事業は自動車事故の過失認定基準によって、良くも悪くも公平かつ厳格に適用されていました。


平成19年3月30日以降の事故においては、やっと自賠責保険と同様に重過失による減額が採用され、被害者過失が70%以下では減額されない扱いに変更になりました。

また、政府保障事業は被害者請求(請求者は被害者本人)のみで、自賠責保険の様に加害者請求は出来ません。

自賠責保険では親族間事故も有責で支払い対象になりますが、政府保障事業では原則的に同一生計の親族間事故は対象外となります。

自賠責保険においては被害者の緊急救済の役割を持つ、仮渡金制度や内払いの制度も政府保障事業にはありません。


その場合は、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)において、政府保障事業における保障金の一部立替貸付を行っていますので急場を凌いで欲しいという事になります。

請求権の時効について、どちらも事故発生日(後遺障害は症状固定日、死亡は死亡日)から3年と規定されています。


但し、平成22年3月31日以前に発生した事故については2年になります。

また、自賠責保険は時効中断が認められるため状況によっては請求期間を延ばすことは可能ですが、政府保障事業には時効中断の制度はありません。


更に、自賠責保険には共同不法行為という概念があるために、自賠責保険を複数適用させての賠償や補償が可能ですが、政府保障事業においては ひき逃げ車両や無保険車が複数台に及ぶ様な事故であっても、保障填補金額の上限は1台分となります。


|政府保障制度以外の自衛策は必要?!

交通事故被害者を救済する制度ではありますが、限度額では自賠責基準と同じとはいえ自賠責より規定が厳格な分、政府保障制度だけに頼るのは心もとないと思います。


その他の手段で自衛する必要が有ります。

「無保険車」や「ひき逃げ」事故に遭った場合の、政府保障事業以外の対策としては損害保険会社の人身傷害保険が最良になるかと思います。


それ以外では、生命保険や傷害保険などでのカバーも検討しましょう。

人身傷害保険に加入していた場合は、保障事業でもどちらに請求してもいいですが、仮に損害額400万円だった場合、人身傷害保険から400万円以内の350万円、政府保証事業から400万円以内の150万円、合計して500万円を受け取ることは出来ません。


総額で400万円までとなります。


人身傷害保険と保障事業の両方から、重複した支払を受けることはできないのです。


この場合は、人身傷害補償保険に300万円、政府保障事業に100万円をそれぞれ請求する事は可能ですが、両方に対して請求手続きをするのは手間もかかり効率も悪いので、人身傷害保険に損害額全て(400万円)を請求した方が、手続きが1つだけで終了するので楽になります。


交通事故による被害者救済の制度ですが、損害保険会社の人身傷害保険が普及してきている現状において、政府保障事業制度の内容は「効果的で有り難い!助かるな」という制度なのか、「う~ん!被害者救済の制度としては中途半端かな~?!」と首を傾げたくなる制度なのか、どちらになるのでしょう?!


昭和30年に制定された制度なので、時代の変化に後れをとっているイメージが無い訳ではありません。


損保社員の中には、規定の一部変更ではなく制度の抜本的な見直しの時期が既に来ていると感じている人は少なくはありません!


しかし、交通事故の加害者側が無保険や、ひき逃げであった場合に利用できる政府保障事業制度は、交通事故被害に備えた予備の知識として知っておいて損はないでしょう!

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