|日雇い労務職の休業損害について
「日雇い労務職」とは、1日限りなど極めて短い有期の労働契約で雇用される労働の形態をいいます。
雇用保険法の第42条において、日雇い労働者とは「日々雇用される者」か「30日以内の期間を定めて雇用される者」のいずれかに該当する者と定義されています。
日雇い労働者は、勤務先を固定しないで次々と勤務先を変えるなど、短期間の約束で複数の勤務先を掛け持ちしている人が多い様です。
そんな状況の中で、事故が起きてケガをした事により休業損害が生じた場合、どの様に対応するのか?・・です。
|日雇い労務職の休業損害請求の手続きについて
日雇い労働者の休業損害の認定手続き等は、基本的にはパートやアルバイトの算出方法とほぼ同じです。
また、パートやアルバイトと同様に「日雇い」であっても、1ヶ月の就労日数が20日以上であること、また1日の就労時間が6時間以上、1週間当たりの労働時間が30時間以上の場合は給与所得者と同様に扱われることになります。
日雇い労働者の休業損害は「事故前3ヶ月の収入合計額÷90日✕休業日数」で算定するのが基本です。
算定に必要な日額単価は、原則として算出された金額が基本になります。
仮に、1日あたりの認定額が自賠責保険基準以下であったとしても、定額の5,700円まで引き上げられず計算された金額のままで認定することになります。
休業日数については、原則として実治療日数の範囲内とされますが、「休業損害証明書」で休業日が証明された場合でも証明されたままで認定される・・!?とはなりません。
ただし、傷害や症状などの程度によって、交通事故発生前の雇用契約内容や季節的要因等も勘案した上で、治療期間の範囲内で実治療日数の2倍を限度に認定する場合もあります。
しかし、認定作業以前の問題ですが、実務的には認定に必要な書類を揃えるのが大仕事になる事例が多い様です。
「日雇い」であっても、雇用されている労働者が休業損害の請求をする場合は、例外なく勤務先で作成してもらう「休業損害証明書」と事故が起きた年の前年度の「源泉徴収票」など添付書類が必要になるのも給与所得者等と同じですが・・。
給与所得者やアルバイトなどの様に、同じ勤務先に継続して働いている場合は「休業損害証明書」などの立証書類を準備することは容易ですが、日雇い労働者の場合は短期間で勤務先が変わるケースや、先々の勤務予定も明確でない場合も多い。
そのために、勤務先によっては「休業損害証明書」の作成依頼をしても難色を示されたり、「源泉徴収票」の発行をしてもらえないこともあります。
日雇い職に限らず、アルバイトやパート、準社員や嘱託など、勤務先が「休業損害証明書」の作成に協力的ではないケースは・・あります!
しかし、正社員やアルバイトに限らず雇用されている労働者が、事故によって生じた給与等の減収分を請求するためには必要な基本的な資料なのです。
「休業損害証明書」が作成してもらえない場合は、休業損害自体を認めてもらうことが出来ない!という状況も起こります。
「休業損害証明書」の入手が出来ない場合は、「所得証明書」や「賃金台帳」「確定申告書控え」等で代用して欲しいと要望される被害者もいますが、これらの書類は「休業損害証明書」による損害額の信憑性を証明する書類であって、休業の事実や状況などを証明する書類ではありません。
勤務先が作成する「休業損害証明書」は絶対に必要!と認識して頂きたい。
|派遣社員の契約打ち切りなどの休業補償はどこまで?
交通事故の被害者が派遣社員であるケースは年々増加傾向にある様に感じています。
派遣社員の休業損害については、給与所得者やアルバイト社員など他の雇用形態の算定基準と大きな違いはありませんが、派遣社員特有の争点や問題点が生じる場合があります。
派遣はその雇用形態の性質上、期限のある雇用契約であるために治療の期間中に契約期間が満了してしまったり、契約が更新されなかったり、次の新しい派遣先が紹介されなかったりで、ケガが治らない状態で派遣が打ち切られるというケースが起きてきます。
ケガの治療が終了する前に契約が切れてしまい、無職状態となってしまった場合の損害はどこまで補償されるのでしょうか?
|派遣社員の休業損害を認定する為の基本の計算式は?
一般的な派遣社員の場合ですが、休業損害の算出方法について「1ヶ月の就労日数が20日以上で、1日の就労時間が6時間以上」である場合がほとんどですので、給与所得者と同じ算出基準になります。
基本的な計算式は「1日の基礎収入額✕休業日数」や「事故前3ヶ月分の給与収入額÷90日✕休業日数」で算出されます。
そして給与収入額の範囲には、残業代や夜勤手当など他の諸手当などの「付加給」を含んでの計算が可能です。
また、1日あたりの基礎収入額が、自賠責保険基準の5,700円を下回った場合は5,700円まで引き上げた金額が1日あたりの基礎収入額になります。
準備する書類は、派遣会社で作成される「休業損害証明書」の他に前年度の「源泉徴収票」も必要になるのは、給与所得者など他の雇用形態と同じです。
休業日数については、ケガのために仕事を休んだ日数です。
所属している派遣会社から、作成してもらった「休業損害証明書」で仕事を休んだ日数を証明してもらえます。
休業日に関しては、有給休暇を使用して休業した日数も、派遣先の勤務カレンダーによる日曜日や祝祭日の公休日など、休業期間中に連続している休日も休業日数に含んで計算されるのも給与所得者の場合と同じです。
|派遣社員の休業に関した争点や問題点
派遣社員は、有機の雇用契約で働いていることで給与所得者と同じ様な休業損害の算出方法では実態とかけ離れた認定額になる場合があります。
その原因のひとつに、勤務期間の連続性や収入が安定していないことです。
一般的には、一つの企業に雇用されて継続して働いている給与所得者の場合は、繁忙期や閑散期などの状況等によって、収入が大きく変わることはほとんどないと思います。
しかし、派遣社員の場合は仕事が多く勤務時間も長くなれば収入も増えますが、仕事が少ない時期は収入が少なくる場合や、派遣先企業が将来の仕事量を判断して派遣契約期間を更新をしない事も起こります。
そして交通事故が起きて、事故前3ヶ月に仕事が少なかったり、派遣契約が切れていたり満了になっている場合の収入額を基礎収入として算定すると、実態とかけ離れた積算額になってしまいます。
更にもう一つは、ケガの治療中に派遣契約が終了し、更新も新規派遣先も無い状況になることの影響は大きい!です。
派遣は派遣先企業との有期の雇用契約であるため、短ければ3ヶ月や6ヶ月で契約期間が満了する場合もあります。
交通事故によるケガの治療期間中に契約期間が満了し、契約更新されなかったケースもありました。
ケガの治療が終了するまでは、次の派遣先も探せない状況で、その結果として無職となったことによる損害請求が問題になります。
|裁判例からみた休業損害の対応策とは?
裁判所判断の傾向として、給与所得者と同じ様な休業損害の算出方法で問題があると考えられる様な場合は、交通事故以前の経歴や収入額、再就職や定職を見つけるための活動実態から休業損害を認めるか否かを判断している様です。
|再就職や定職を見つけた蓋然性が高いと判断された場合
事故前3ヶ月の収入額は低いが、経歴や収入履歴、再就職や定職に就くための活動をしていることで再就職についていた!あるいは再就職先を見つけていた!であろう蓋然性が高いと認められる場合は、賃金センサスの平均賃金を基準にして損害算定をする場合があります。
但し、賃金センサス平均賃金の100%が認められる事は少なく、状況や個別の事情に合わせて割合認定されることが多い。
|新規派遣先がすぐに見つかる!または契約更新された!であろう蓋然性が高い場合
ケガの治療期間中に契約期間が満了になり、更新もされなかった場合でも過去の派遣経歴などから契約更新や新規派遣先が見つかる蓋然性が高いと推定された場合は、契約期間満了後も休業損害が認められる場合があります。
|派遣社員が妥当な休業損害を請求するために
ケガの治療などのために派遣期間満了後に更新がされない場合や、新規派遣先も決められない状態の場合、保険会社は基本的には事故前3ヶ月の実収入を基準にするか、自賠責保険基準の定額5,700円を提示してくるはずです。
対して裁判所の判断傾向を根拠として、これまでの経歴や実収入が主張できる資料や再就職や定職に就くための活動、そして派遣の更新歴や新規派遣先が直ちに決まっていた過去の実績などを提示することで、実態に近づけた基礎収入を明確にした請求も可能になるでしょう。
・・と基本で杓子定規な請求手続きになります。しかし、最終的には「いくらで認めてくれるのか?」にあります。
休業による損害は、基礎収入と休業日数で算定されます。基礎収入を実態に近づけることが出来ても、休業日数は「休業損害証明書」が認定のベースになります。
休業している期間が中長期に渡っている場合、ケガの状況や症状にもよりますが、記載されている休業期間がそのまま認定される可能性は低いかも知れません。
基礎収入については保険会社主張の自賠責保険基準の定額で了承する代わりに、休業期間については保険会社側の譲歩を引き出すことも「有り」かも知れません。
基礎収入を実態に近づけた主張をして、その代り休業期間を譲歩するのか?或いは、基礎収入は自賠責保険基準で了承する代わりに、休業期間については主張通りの認定をしてもらうのか?
基礎収入と休業期間の両方が、主張通りに認められる割合は低い!
賠償金の総額を比較検討して、方針を決めての交渉が効果的と思います。