|冠水している道路に進入したら車はどうなる?
集中豪雨などで冠水した道路を、「エイ!ヤーッ!」の掛け声と共に勢いを付けて走り抜けようとする車もある様ですが、無謀でかなり危険な行為なのです。
水は決して柔らかな物質ではありません。
ご存じの通り、水面に手や足を静かに差し入れた場合はほとんど抵抗感はありませんが、勢いを付けて水面を叩くと、かなりの硬さを感じます。
車も相応の速度で水に突っ込んで行くと、かなりの衝撃を受けることになり前面部の破損も起こります。
タイヤの半径程度の水深でも、時速30~40km位で突っ込んだ場合はその衝撃でバンパー等フロントグリルの損壊や、車の形状によってはラジエータにまで衝撃が及ぶこともあります。
また、水没を免れて運良く走り抜くことができた車でも、フロントバンパー付近に設置されているエアバッグなど、各種センサーの破損や、ダメージによって警告灯の点灯など異常な反応を示すこともあります。
走り抜いた後で、車から降りて確認したら、フロント部分が想像以上に大きく損壊していたということも少なくありません。
冠水している道路への突入は、水深が深ければスピードによる慣性と浮力の相乗効果により、車が一瞬水に浮いてしまう状態になって走れなくなり、そのままエンストし徐々に水没するということが起こります。
道路や線路の下を通過するためのアンダーパスでは、水深の予測を誤って水没させてしまい車から脱出できず、車に乗ったまま溺れかけた事例も発生しているのです。
|エンジンは水を吸い込むと急停止する!
エンジンは一気に水を吸い込むと急停止します。
タイヤのホイールに達する位の水深を勢い良く走行するニュース映像を見たことはあると思いますが、タイヤは車両の外側と内側に同量の水を跳ね上げています。
見た目以上の量で、左右のタイヤが内側に跳ね上げた水はエンジンルームに入ります。
アンダーガードで跳ね上げた水の大量流入を阻止していますが、それでもかなりの水量がエンジンルーム内に入って来ます。
最悪の事態としてエンジンが停止する現象が起きることがあります。
しかも、エンジンが停止する際には大きな衝撃を伴います。
水撃作用(ウォーターハンマー)によりエンジン内部が損壊することも少なくありません。
水撃作用とは、圧縮が困難な水が、空気の吸入口からバルブに入りシリンダーの中で勢い良く圧縮されることで起こります。
水が少量であれば、圧縮される過程においてシリンダー内で水蒸気化されるので空気と一緒に圧縮されますが、一気に吸い込まれた場合は、圧縮しきれずにピストンに繋がるコンロッドを損壊します。
エンジン回転が高い状態や、圧縮比が高いエンジンでは、一瞬でエンジンブロックをコンロッドが突き抜けてしまう現象が起こる場合もあるのです。
|排気管からもエンジン内に水は入る
水深が排気管位に深ければ、排気管からも水圧により水が入ってくることがあります。
予期せぬ水深の冠水道路に入ってしまった場合は、エンジンを止めないようにして、水圧で排気管に水が進入しない様に排気圧を意識し、少しエンジン回転数を高く保ち、ゆっくりとした速度で脱出するようにします。
操作の方法は、オートマの場合であれば、右足でアクセルを踏んでエンジン回転数を少し上げて、左足でブレーキペダルを踏んで速度調整をすることになるのですが、その操作を同時に行うことになります。
一般的な操作では無いので、チョッとした時に練習しておく事をお勧めします。
|冠水した道路を渡り切っても安心してはならない!
冠水した道路を無事通過すると、気持ち的に「ホッ」とするとは思いますが、ロスした時間を埋めるために直後のスピードアップは絶対にしてはいけません。
ブレーキの制動状態を確認して下さい!効かなくなっているかも・・!要注意です。
一般的には、車のブレーキシステムとしてフロントにディスクブレーキを備えています。
ディスクブレーキは優れもののシステムなので、全く効かなくなる事はありませんが、ブレーキパッドが水をたっぷり含んで冷えた状態になると、一時的に制動力が落ちます。
そして、水による影響を受けるのがドラム式のリヤブレーキです。
冠水道路に進入したあとの数回のブレーキングでは、故障したと錯覚する位にブレーキが効かなくなることがあります。
ドラム式ブレーキは、軽自動車からミニバンクラスまで幅広く採用されているブレーキシステムです。
このブレーキは、鉄製のブレーキドラムの内側を半月状のブレーキライニングを内側からドラムの内壁に向けて開き制動をかける構造です。
水に浸かるとドラムとライニングの間に水が入ってしまい、数回のポンピングでは水が排出されません。
また、水の排出後もライニングが乾くまで制動力が落ちるため、注意が必要になってきます。
使用している車両のブレーキはディスクなのかドラム式なのか機会をみて確認しておいて下さい。
ドラム式だった場合は、深い水たまりを走ったらブレーキの効きが落ちることを記憶しておきましょう。
一刻も早く制動力を回復させるためには、冠水道路を脱出したらゆっくりと走り、数回のポンピングブレーキとパーキングブレーキを併用して、水の排出とブレーキの乾燥に努めることが必要です。
制動力を実感するまではスピードアップは厳禁ということです。
|水没した車の一般的な損害範囲は?修理修復は可能か?
冠水により水没した車両は、見た目以上や想像した以上に損害の程度は大きく、修理や復旧は困難と判断される場合が多い。
|車内や室内の損害範囲
車室内はご存じの通り、カーペットやシートなど繊維製品が多く、冠水により泥や砂などを含んだ汚水が染み込みやすい状態にあります。
汚水等に浸かった場合ですが、即日の対応は困難で通常は水が引いてから、清掃等のために車両を工場等に搬送するのですが、その時には既に数日を要しているのがほとんどです。
時間の経過により、シミや汚れ、悪臭が染み込んでいる状態になっています。
清掃のためにシートやカーペット、ドア等の内張りを始めとする多数の部品を外しますが、そのほとんどの部品は交換が必要になります。
修理や清掃など作業前の準備だけでもかなりの手間と労力を要することになり金額もかさみます。
しかし、そこまでしても完全に清掃し、悪臭を消去するのは不可能!
ほぼ100%の確率で厳しい悪臭が残ります!
|エンジンなど動力系統の損害
エンジンやモーターなどは、水に浸かる可能性は一切想定していないため、水没した場合はモーター等のエンジン補機類からエンジン本体まで交換が必要になります。
特に走行中に水没し急激にエンジンストップになってしまった場合、水撃作用(ウオーターハンマー)と呼ばれるエンジン内での水圧の異常作用で、内部破損が起きている場合もあります。
エンジンのオーバーホールの作業が必要になって来ます。
当然ですが、動力用モーターにも影響があります。
エンジンが始動していない状態で駐車していた時に水没した場合は、運よくエンジンが損壊していない可能性はあります。
その場合でも、水が引いた直後にエンジンが損壊していないか心配でキーを差し込み回したくなる気持ちは理解出来ますが、それは厳禁です!
試しにエンジンを始動させる場合でも、とにかくエンジンルームをよく乾燥させてからが絶対の最低条件となります。
エンジンへの吸気口などに水が入っていないかを確認して、水が入った可能性が有る場合は、修理工場などで浸水の有無を確認してからの始動が、結果的には最も安価と思います。
|電装系やセンサー、制御パーツなどの損害
車内や室内、エンジンルーム、バッテリー、ライト関係など様々な電気系統の配線類も故障の原因になる場合もあるので確認作業が必要になります。
|水没や水害事故による損害は全損認定が基本!
水没損害は、車室内や動力系統、電気系統の損害が合わせて発生することになるので修理費用がかさみ、その結果として全損として認定されることが多い。
登録されてから間もない新車でも、概ねダッシュボードの上部まで浸水した場合は、エンジンなども完全に浸水している状態になるため、そのほとんどは物理的全損扱いとなることが多くなります。
また、低年式車や中古車の場合でも同様に、清掃等を含めた修理見積金額が保険金額を超えるので、ほとんどが経済的全損扱いとなります。
|水没後は早急に保険会社に報告連絡を入れることです
事故とは関係なく、水没しただけの場合でも警察への連絡は入れておきましょう。
水没後の車は、時間の経過と共に乾燥などによって状態が変化しますから、早い時期に保険会社と自動車修理業者への連絡も入れて下さい。
水没している状態や、泥や流れてきた堆積物に埋まっているなどの状態なら、そのままで確認してもらう場合の方が良いでしょう。
保険会社のアジャスターが車を見た瞬間に全損認定!
損傷個所や損害程度の確認もせずに、社内用語になりますが「ひとめ全損」と判断するはずです。
冠水した道路を走行して水没してしまったが脱出して帰宅した場合や、20cm程度の水深の通過だったので特段の問題が無ければ良いのですが、翌日になってエンジンから異音が聞こえるなどが現れた場合は、速やかに整備工場や保険会社に連絡を入れて対応等を相談して下さい。
最後にもう一度、集中豪雨やゲリラ豪雨が起きた場合、今使用している車を今後も乗りたいなら「冠水した道路は避ける!」これほど懸命な防御策は有りませんし、最善の安全策で且つ費用負担も0円と肝に銘じて頂きたい。