|刑事上の責任(処分)を負うということは?
交通事故が起きると被害者がケガを負うことや、状況によっては亡くなる場合もあります。
ケガの程度を問わず、人の生命や身体という最も保護されるべきものを侵害するのですから、法律に則って責任を負う事になります。
これが、「刑事罰」を科す根本的な考え方です。
しかし、あまりにも悪質な交通事故が続くと社会的要請や応報刑的な意味合いもあって、刑事罰は厳罰化の方向に傾きます。
その傾向を具体化したひとつが、平成26年5月20日に新たに施行された「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」になります。
そして、道路交通法の改正によって令和2年6月30日施行の、「あおり運転」に対する「妨害運転罪」が創設されました。
交通事故を起こした、または交通法規に違反したということは刑事上の罪を犯したものとしてその罪状に応じた刑罰、具体的には「懲役」や「罰金」が科せられるということです。
|交通事故や交通違反の罰則の一例です!
[道路交通法で科せられる主な罰則]
・酒酔い 麻薬運転等 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
・無免許運転等(酒気帯び、過労運転等) 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
・共同危険行為等の禁止 2年以下の懲役又は50万円以下の罰金
・速度違反等 6ヶ月以下の懲役又は10万円以下の罰金
・交通規制 信号無視等 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
・あおり運転 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
その他にも、自賠責保険の未加入、車検切れ、負傷者の救護と危険防止の処置違反(ひき逃げ)、事故報告義務違反でも刑罰が科せられます。
[刑法で科せられる代表的な刑事罰]
・業務上過失致死傷罪
自動車事故については、主に自動車運転処罰法が適用されるのですが、自動車事故以外の交通事故については、「業務上過失致死傷罪」として5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が適用されることになります。
「業務上過失致死傷罪」に当てはまらないが、通常の事故より責任の程度が重大と判断される場合には、「重過失致死傷罪」が適用されるという場合もあります。
最近では、自転車による歩行者等との交通事故において適用されるケースが目立って来ています。
[自動車運転処罰法で科せられる代表的な罰則]
・過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)
自動車事故の場合は、被害者が被った損害がケガであれば「過失運転傷害罪」、被った損害の結果が死亡の場合は「過失運転致死罪」に問われることになります。
しかし、昨今の故意と思える様な悪質な事故の加害者に対して厳罰を科す為に、平成19年に「自動車運転過失致死傷罪」が刑法において新設されて、更に特別法として「自動車運転処罰法」が新設され、その一部として「過失運転致死傷罪」が設定されました。
「過失運転致死傷罪」が適用された場合は、7年以下の懲役もしくは禁錮か、又は100万円以下の罰金が科されることになります。
・危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条以下)
自動車の運転に起因した交通事故のうちで、特にその事故内容が故意に近い悪質かつ危険な運転に該当すると判断された場合は、「過失運転致死傷罪」ではなく、より重い量刑である「危険運転致死傷罪」が科せられます。
具体的には、薬物を服用しての運転、法定速度を大幅に超えた高速度運転、正常な運転が困難な量の飲酒運転、事故が起きた状況が故意と捉えられる様な運転、信号無視などの場合に適用される事になります。
「危険運転傷害罪」の場合には1ヶ月以上15年以下、「危険運転致死罪」の場合には1年以上20年以下の懲役が科されることになります。
飲酒運転については、酒酔いの程度が正常に運転する事が困難ではない場合でも、人にケガを負わせた場合には1ヶ月以上12年以下の懲役、人を死亡させた場合は1ヶ月以上15年以下の懲役に、別途に飲酒していたことを隠ぺいしようとした場合には、1ヶ月以上12年以下の懲役に処せられる場合もあります。
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|交通事故の刑事罰!懲役なのか?罰金か?
交通事故を起こした場合は、何らかの交通法規違反を犯している場合も多いので、事故状況によって刑事罰の内容も変わってきます。
また、被害者のケガなど損害の程度が軽い場合は刑事上の責任を問われる可能性は低いのですが、交通法規違反であることを認識したうえでのスピード違反や、信号無視などが事故の原因になっている場合、被害者のケガ等損害程度が大きい場合などは、刑事罰が科せられているケースが多い様です。
「懲役と罰金」は、条文が「又は」になっているので、どちらかの一方が科せられるので両方が科せられることはありません。
どちらが科せられるのかは、裁判で個別事情などが考慮されて決められますが、交通事故や交通違反の場合で、刑事罰の対象となっている罪状が軽微であれば、即決裁判で処理される事がほとんどです。
この場合は罰金刑が科せられることになります。
参考までに、交通違反による刑事上の責任が科せられるのは一般的言われる「赤切符」違反で、比較的重い部類の違反になります。
例えば、30km以上の速度違反の場合は「赤切符」が切られて、法律上では「六月以下の懲役又は十万円以下の罰金」になっています。
懲役刑か罰金刑のどちらの刑が科されるのかは、対象者の態度や証言等によって変わってきます。
違反内容が比較的軽微で、違反を認めて罰を受ける気持ちであること等が認められた場合は「即決裁判」で、ほぼ罰金刑になっています。
しかし、違反を認めない!つまり反省が見られない状況など、量刑を判断することが重要であると判断される様な場合は通常の裁判が行われます。
この場合は懲役刑となる可能性が高くなります。
|交通事故の刑事罰は人身事故のみ?
交通事故には、死傷者などが生じる「人身事故」と、他人の車や公共物等の物を破損させる「物損事故」があります。
刑事責任が問われる交通事故は、基本的には人身事故のみで、よほどの事情が無い限り物損事故扱いで刑事責任は問われないのが一般的です。
但し、損壊させた物が他人の所有する、家や店舗等の建築物であった場合は刑事責任が発生します。
道交法116条や、刑法260条の過失建造物損壊罪などが該当します。
また、物損事故を起こした原因のひとつとして、飲酒運転やスピード違反をしていたなどの、別の道路交通法違反をしていた場合は、その部分においての刑事責任を問われる事にはなります。
そして一般的ではないケースとして、物損事故扱いで刑事責任が生じる場合とは、重大な事故や故意に起こした事故、道路交通法に違反していた場合に限定されています。
刑事責任が問われて刑事上の処分へ発展しなければ、免許点数が加点されるなどの行政処分と、損害賠償の民事上の責任、そして被害者への謝罪で交通事故は解決されることになります。
|交通事故における刑事責任が問われる可能性について
通常の交通事故、つまり過失はあるが悪質ではないとされる運転の事故で、被害者が軽傷で済んだ場合で起訴されたケースを知りません。
事故状況によっては、略式起訴されて罰金刑が科せられる事がありますが、ほとんどの場合は警察から書類が送検されて、検察で不起訴決定される事になっている様です。
不起訴の決定が確定した場合は刑事処分を受けることはなく、よって前科もつきません。
それでは、運転は悪質では有りませんが被害者が重傷を負う、或いは死亡した場合はどうなるのでしょうか?
検察官によっては起訴される場合はあります!が、逮捕や勾留によって身体が拘束される可能性は低い様です。
通常は、「在宅起訴」で、通常の生活を送りながら裁判手続きに入ることになると思います。
そして在宅起訴では、罰金刑が下されることが多い。
次に、運転に悪質性が有ると判断された場合です。
例えば、法定速度を大幅に超過した速度違反による死亡事故、昨今の「あおり運転」、飲酒や薬物を服用して運転、轢き逃げ・・等運転が悪質と認められる様な場合は、逮捕や勾留の可能性はかなり高くなります。
この場合は、身柄を拘束された状態のまま起訴され、裁判へと進むことになるでしょう。
|刑事処分を軽減することは可能か?!
刑事処分を軽減するという事は、「不起訴処分」にしてもらう事をいいます。
不起訴処分になったら、刑事裁判は行われませんので前科がつく事もありません。
不起訴処分とするためには、いくつかの重要なポイントがありますが、大きいのは2点。
1点は、被害者と示談を成立させること!
損害賠償金の支払いが既に終わっているような場合には、被害弁償が完了しているとして刑の減刑事由として考慮されます。
しかし、損害の確認状況やケガの治療が終了していない場合や、被害者側の事情で早期示談を望まないこともあります。
2点目として、示談未成立の場合は、被害者に厳罰を望まない旨の「嘆願書」を提出してもらうという方法があります。
嘆願書が提出されるということは加害者側の謝罪等によって、被害者側が感情的には冷静かつ落ち着いた状況にあると判断され、刑の減軽事由として考慮されるからです。
その他一連の流れとして、しっかり反省している状態や家族からの監督や管理を受ける事など、具体的な対策等を示すことによって不起訴になる可能性が高くなる場合もあります。
|被害者側が重い刑事処分を望んだ場合はどうなる?
交通事故の被害にあって、加害者としての誠意も反省も感じられない!と憤りを感じることもあります。
保険会社に事故の対応の一切を任せきりにして、一度も謝罪に来ない加害者もいますし、死亡事故でお葬式にも行かない加害者もいます!
加害者が刑事処分の軽減を望むのと同様に、被害者側が加害者に対して重い刑事処分を望む場合があります!
一般的なのが、先程とは逆に厳罰を望む旨の「嘆願書」の提出もありますが、「被害者参加制度」を活用する方法もあります。
|被害者参加制度の活用
今までは交通事故の被害者は、刑事裁判に直接の参加は許されておらず、傍聴席に座っていることしか出来ませんでした。
しかし、最近では犯罪被害者を支援する観点から、交通事故の刑事裁判でも加害者である被告人に対して直接質疑すること等が可能になりました。
これが、「被害者参加制度」です。
被害者参加制度を利用して被害者側が加害者に対して厳罰を求めたい場合は、意見陳述等を介し、刑を重くする様に働きかけることが出来ます。
しかし、検察官が公判請求をしなければ刑事裁判は開廷されず、交通事故の加害者には罰金刑が下されて終結してしまう事もあります。
よって、被害者側として加害者に厳罰を求めたい場合は、捜査段階で検察官に公判請求をするように働きかける一貫として、意見書を提出する事も必要になります。
いずれにせよ、刑事罰が科せられる場合は、犯罪として取り扱われているという事です。