|玉突き事故と順突事故はどちらも追突事故!違いは?
車両数台が絡む追突事故が起きた場合、保険会社には「玉突き事故」です!と報告が入るのですが、事故の発生状況によって厳密には「玉突き事故」と「順突事故」に分けられます。
「玉突き事故」とは、停止もしくは走行している車列の車に追突してしまい、その追突された反動によって、その前の車に連鎖的に追突していく事故の形態をいいます。
基本的には、最後尾から追突した車両に100%の責任が発生します。
対して、「順突事故」とは、停止もしくは走行している車に後続車両が追突し、更にその後ろの車が次々と追突してしまう事故のことをいいます。
例えば、先頭車両をA車、真ん中をB車、一番後ろがC車として、3台が絡む事故を想定してみます。
A車が赤信号での停車や、何らかの理由でブレーキをかけた時に、B車が停まれずにA車に追突その後ろを走行していたC車も停まれずに、B車に追突したというケースです。
保険会社にしてみると、「玉突き事故」と「順突事故」では賠償の範囲は違ってくるので、事故形態を特定する事はとても重要になってきます。
「玉突き事故」の場合は、最後尾の車両が加入している保険会社が、全部の被害車両の損害に対物賠償保険で対応することになります。
保険会社にとっては、事故によって発生した損害の全額を賠償するので金額は大きくなりますが、「順突事故」の様に、賠償の範囲を特定するための煩雑さはありません。
報告された事故が、「玉突き事故」か「順突事故」だったのかを確認するために、保険会社が最初に行う調査活動は、基本的には過失0%の先頭車両の運転者や同乗者への聴取が行われます。
主な確認内容は、受けた衝撃の回数です。
衝撃が1回だった場合は「玉突き事故」で、車の台数分の衝撃を受けた場合は「順突事故」である確率はかなり高くなります。
次は、警察へ照会をかけます。
警察においても「玉突き事故」は一事故として処理が進められますが、「順突事故」の場合は、それぞれの追突事故として独立した事故として扱われます。
よって、「交通事故証明書」もそれぞれ別になります。
そして、複数台が絡んだ交通事故については、保険会社のアジャスターが立ち合っての調査が基本になり、損壊状態から事故状況の解析と損害の確認をすることになります。
|玉突き事故の過失と損害賠償について
例として、先頭車両をA車、真ん中をB車、一番後ろがC車として、3台が絡む玉突き事故を想定してみます。
事故状況は、交差点の信号機が黄色から赤色に変わったので、先頭のA車が慌てて停車、後続のB車も間に合って止まったところに、三台の車列の最後尾C車がB車に追突した。
C車に追突されて押し出されたB車が、先頭のA車に追突した事故。
事故形態は、典型的な「玉突き事故」であり一事故として処理されます。
過失割合は、A車に「法24条違反ブレーキ」が認められた場合は過失が生じる事になりますが、「法24条違」が無い場合は当然ですが無過失になり、B車においてもA車との関係では追突せずに停車したので、A車に対して賠償義務は負いません。
つまり、最後尾のC車が、B車に追突しなければA車とB車の衝突は起きなかった事になります。
C車が、A車とB車の全損害を賠償する義務を負う事になり、至って理解しやすい賠償範囲で対応を進める事が出来ます。
|順突事故は賠償範囲で難解になる?!
玉突き事故と違い、順突事故は簡単にはいかない場合が多い。
追突事故例として先頭車両をA車、真ん中をB車、一番後ろがC車として3台が順突事故を起こした場合です。
先頭のA車が何らかの理由で停車したところに、止まれ切れずにB車が追突してしまった。
そこにC車が更に追突したという事故です。
基本的な賠償の義務としては、A車には追突したB車が賠償の義務を負い、B車にはC車が賠償する事になります。
賠償の基本は、「玉突き事故」と大きく変わらない!と思われるかも知れませんが、状況によっては解決までに結構な労力や時間を費やす状況になる事があります。
|順突事故の争点のひとつ「過失割合」
事故形態の基本形が「追突事故」なので、基本的には追突した車両が100%の賠償義務を負います。
「順突事故」の先頭車両のA車ですが、前方に危険を察知したり車両が停車したのが見えた等、ブレーキをかけた理由に正当性が認められた場合は、A車に損害賠償の請求をする事は出来ません。
しかし、仮にA車が「法24条違反」に該当する様な理由の無いブレーキをかけたことで事故が発生したと認められた場合は、A車にも過失が生じます。
一般道においては、「法24条違反」のA車は追突してきたB車の損害に対して30%程度の賠償義務を負うことになります。
この状況にあって、更にB車の後方からC車が追突してきた場合はどうなるのか?
模範的な解答は、「事故状況の詳細を確認し、追突の時間差など実態に則した個別の判断をします」になるのでしょうが、見方を変えて真ん中のB車の立場になってみると・・?!
A車は「法24条違反ブレーキ」によって30%の過失が生じたが、B車はA車に追突するのを回避するためにブレーキをかけたが間に合わず追突して停止したことになります。
つまり、B車は追突して来たC車に対して「法24条違反」は犯していない状態ということです。
理屈上では、B車は追突したA車からフロント部分の損害の30%の賠償を受けられることになり、後部損害の100%をC車に請求する事は可能になるのです。
それでは、最後尾のC車はどうなるのでしょうか?
A車が「法24条違反ブレーキ」をかけなければ、B車はA車に追突しなかった可能性は大きい、その場合はC車もB車に追突する事はなかったかも知れない。
A車の「法24条違反」はB車とC車を巻き込んだ順突事故と因果関係はある?!
よって、C車が追突したB車の後部損害についても、A車が30%を賠償してC車が70%を賠償するのが妥当ではないのか?!
C車が譲歩して、仮にB車の後部損害100%を賠償する事になった場合でも、A車はC車の損害30%を、B車に対するのと同様に賠償する義務を負う!のが妥当と、C車が主張する事について理屈上では可能ということになります。
ここで、「事故発生状況や、事故に至る迄の時間的状況等を確認し、個別に判断する事になります」の文言が生きてくるのです。
先頭車両Aに「法24条違反」が認定される様な順突事故であったとしても、基本の形態は「追突事故」であり、後続車両の車間距離不保持が事故原因の根幹になります。
例えば、先行のA車が「法24条違反」の急ブレーキをかけたので、後続のB車も急ブレーキをかけたが車間距離が充分だったのでA車への追突は免れた。
しかし、最後尾のC車が間に合わずにB車に追突してしまった。
事故が発生した原因は、A車の「法24条違反」の急ブレーキになるので、C車がB車に追突した事故においても30%程度の過失をA車に負わせる事が可能と思われますが、B車がA車に追突していないので、A車は交通事故の当事者にはなりません。
先頭のA車の過失割合は0%になり、B車に追突したC車の責任のみが問われることになります。
ここまでは、順突事故の「過失割合」に関して理屈や理論上で可能な主張範囲としての内容でしたが、損害の認定や賠償の範囲については対応や処理が大変!になる可能性もあるのです?!
|順突事故のもうひとつの争点!「損害と賠償の範囲」
再び例として、先行の車両A車に真ん中のB車が追突、そこへ3台目のC車がB車に追突した場合ですが・・。
賠償の基本は、B車はA車に、C車はB車に、追突した車両が被追突車それぞれに賠償を行うことになります。
ここで、損害の拡大に対する賠償の範囲が問題になる場合があります。
大きくは、経済的か物理的かを問わず全損なのか修理が可能な分損状態なのかによって、対応が変わって来ます。
可能性の範囲として、B車がA車に追突した時点でA車が大破して誰の目からも修理は不可能な「一目全損(ひとめぜんそん)」と判断される場合もあれば、C車がB車に追突した事によってA車の損害が拡大し、分損状態から全損と認定される可能性も出てくるのです。
A車がB車に追突された時点で全損の状態になっていた場合は、C車から賠償を受ける事は出来ません。
既に財物として価値がない物を損壊しても、賠償すべき対象にはならないということです。
追突によって財物としての価値を喪失させたB車が、A車の時価額算定した賠償額を支払う事になります。
C車に追突されたB車でも、全損なのか分損なのか?賠償範囲に関しての問題は起こるのですが、A車の損害拡大の可能性より少しは明確に出来る可能性は高くなります。
大惨事となった事故の車両は、「一目全損」が認定される状態がほとんどなので別にして、一般的には設定した様な順突事故の場合、B車の損害はA車に追突した時に生じたフロント部分の損害と、C車に追突された際の後部の損害が、室内空間を挟んで別々に検証出来る事が多いため、認定範囲や損害額が明確になる可能性は高くはなります。
賠償上の理屈では、後方からのC車の追突によってB車のフロント部分が押し込まれた分、A車の後部損害とB車のフロント部分の損害は拡大している事になるのでしょう。
C車の追突によって拡大した損害額が立証された場合は、当然ですがA車もB車も、C車から拡大した損害に対して賠償請求をすることは可能です。
しかし、現実的には瞬間的な時間差の事故で、拡大した損害を立証するのはほとんど不可能です。
A車に追突しC車に追突された真ん中のB車の場合、仮にB車の時価が200万円であったとして、A車に追突した時点でフロント部分の損害が100万円発生、その後にC車に追突されて後部の損害が150万円生じた場合ですが・・。
B車は、A車に追突した時点のフロント部分の損害は80万円だったが、C車に追突されてA車の方に押し込まれた事によって20万円損害が増え、合わせて100万円の損害になった。
A車の損害も、B車が追突して生じた損害額より20万円がC車の追突により増えた。
よって、C車にはA車の拡大した損害20万円と、B車のフロント部分の損害が拡大した分の20万円を請求したい。
B車として請求したい総額は、C車が直接衝突して発生したB車後部の損害150万円と損害が拡大したフロント部分の20万円を請求したい!となった場合、C車が追突した事で損害が拡大した部分の請求は、理論上では可能でしょう。
しかし、C車が追突したことによる損害額が20万円増えた事を、立証するのは現実的にはほとんど不可能です。
仮に、二重追突などによって、損壊部分が50cm程度押し込まれたからと言って、修理金額には殆ど差は無いと、複数の修理業者から教えてもらった事を考えると、実務上では拡大した損害の立証は意味をなさないのかも知れません。
賠償上では、C車がB車に対して負う賠償範囲は、B車の後部損害の150万円の内、残存している価値の100万円を支払うという事になります。
B車の時価額200万円の内、A車に追突した時点で100万円は損壊していますので、C車は差額によって100万円の価値のB車に追突したことになります。
多重の順突事故の場合は、理論上では認められる賠償範囲や損害と、実務上ではほとんど不可能と言える立証義務が、背中合わせで混在している事故形態ということになるのかも知れません。
複数の車両による「玉突き事故」や「順突事故」を起こさないためには、「前方注視と十分な車間距離」の確保は当然ですが、追突事故は絶対に起こさないという決意と覚悟!これに尽きると思うのです。