|交通事故紛争処理センターとはどんな組織?
交通事故の被害者は、自賠責保険などの各種保険制度により、被った損害に対して補償を受けることができます。
しかし、一般的には交通事故の賠償や保険について難解な項目が多く、被害者が適正な賠償やどこまで請求可能なのか等がわからないために、示談や賠償交渉を円滑に進めることが難しい場合があります。
交通事故に限らず、賠償問題や紛争について納得感のある解決をするためには、裁判所を利用するのが最良なのかもしれません。
しかし、申立て等の手続きはやはり容易ではなく、更に訴訟となると解決までに長期にわたったり、費用の不安もあって利用するのに躊躇してしまうことが多い。
そんな心配や不安を抱えている交通事故の被害者に、知って頂きたいのが「交通事故紛争処理センター」と「日弁連交通事故相談センター」です。
「交通事故紛争処理センター」も「日弁連交通事故相談センター」も、交通事故による賠償問題や紛争などを解決するための、「ADR」のひとつです。
「ADR」とは、裁判外の紛争処理の機関のことで、裁判所を利用せずに当事者間の問題や紛争を解決する目的で設置されており、「ADR法」という法律に基づいて法務大臣が認証する制度として運用されています。
「交通事故紛争処理センター」も「日弁連交通事故相談センター」も、同じ交通事故に関する問題や紛争解決の機関なのですが、損害保険会社にとってはこのふたつの機関の位置づけは大きく違います。
損害保険会社にとって、「交通事故紛争処理センター」は正直にやはり厳しい!と思うのです。
「きらい」とか「冗談じゃねぇぞ」「ふざけんなよ」、「弁護士費用の負担もなしで、弁護士基準適用かよ!」等の不適切な文言は当然ですが使えないので、表現が「厳しい」になってしまいます。
この「交通事故紛争処理センター」(以下「紛セ」)を介して協議した結果、解決に向けた和解あっ旋が不調になった場合は、審査が申し立てられます。
審査結果の裁定に申立人である被害者が同意した場合、損害保険会社は裁定を尊重する事とされているため、ほぼ和解が成立することになります。
「裁定を尊重すること・・」とは、「紛セ」の裁定には保険会社に対して強制力があるため、拘束されて従う義務を負う!ということです。
|[日弁連交通事故相談センターと「紛セ」の違いは?
もう一方の「日弁連交通事故相談センター」(以下「弁セ」)と損害保険会社とは協定していないので、保険会社には示談斡旋等に強制力も拘束力もありません。
但し、一部の自動車共済とは協定しているので、相手方が該当する共済である場合は「弁セ」での和解斡旋の協議を申し立てるのも一方法かと思います。
また、「弁セ」は基本的には和解の斡旋まで望まない、事故に関する相談で間に合う場合や、交通事故の直後であったり治療が継続中で、損害が確定していない時点での相談も可能であることが特徴になります。
その他の大きな特色としては、ケガやケガを伴う物損害事故の場合は、相手が自賠責のみでも無保険でも示談あっ旋が可能なのことです(但し、物損害のみの場合は任意保険等に加入していないと示談斡旋は出来ません)。
逆に「紛セ」では、例え人身損害が争点であったとしても、相手が任意保険や任意共済に未加入の場合は原則として和解あっ旋はしていません。
「紛セ」運営の財源は、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)、全国労働者共済生活協同組合連合会(全労済)、全国トラック交通共済協同組合連合会(交協連)、全国自動車共済協同組合連合会(全自共)、全日本火災共済協同組合連合会(日火連)、そして何と国内や外国の損害保険会社、が拠出しています。
運営財源の一部を拠出して、なお損保にとっては強制力や拘束力があることで、無難な言い方をするなら損害保険会社にとって、「紛セ」存在感は大きい!という事になります。
|「紛セ」と「弁セ」を選択する基準とは?
選択する際に、被害者の目的は何か?相手は保険会社?それとも共済?かによって変わって来ます。
「早さ」を優先させたい、法律相談だけで間に合う状況である、相手は損害保険会社ですが主張する損害額の開差が小さい!場合の示談あっ旋は「弁セ」でしょう。
対して相手が損害保険会社で、双方が主張する賠償額や過失割合に大きな開きがある場合は、ある程度の時間は要しますが、損害保険会社に強制力のある「紛セ」。
相手が自動車共済であったり、任意保険や共済に加入していない場合は「弁セ」を選択することをお薦めします。
|交通事故紛争処理センターを利用するに際しての注意点やながれは?
交通事故にあったら、相手の保険会社や加害者本人との間で示談交渉を進めて行く事になるのですが、示談協議の時間を費やしてもお互いが合意に至らずに決裂してしまうことがあります。
このようなとき、「紛セ」という機関を利用して、問題の解決を図ることができます。
「紛セ」の業務内容や活用の仕方、そして手続きから解決までの流れはどの様に進むのでしょうか?
|最初はまず相談して下さい
交通事故にあった被害者の賠償の相談を無料で受け付けています。
基本的には面談での相談になりますので、電話で申し込みをして相談日時の決定を行うことになります。
また、自動車事故の紛争解決が目的であるため、交通事故直後や治療中など損害が確定していない段階での相談は受け付けていません。
「紛セ」で交通事故の相談を受けてくれるのは、交通事故の問題に精通している弁護士になりますので、必要かつ適切な内容でアドバイスをしてくれるはずです。
|和解あっ旋をしてくれます
相談の結果、「紛セ」を介して示談協議を依頼する事にした場合は「紛セ」の担当弁護士が、被害者と加害側の保険会社との間に入って双方の主張等を調整して、和解あっ旋の協議を進めます。
担当の弁護士が、提示した和解案に加害者側の保険会社と被害者が合意する事ができた場合は、和解が成立し協議や紛争が終結することになります。
次の手続きとして、担当弁護士が立ち会いのもと、賠償金の支払期日まで特定した示談書か免責証書(被害者側だけの片印の示談書)が作成されます。
和解あっ旋の協議は、成立か不成立の結論が確定されるまでに、大よそ人身事故の場合は4~5回程度、物損事故の場合で2~3回位繰り返されるのが一般的です。
|和解あっ旋が終了する場合
和解あっ旋が終了する場合は、和解が成立した場合になりますが、他にも以下の理由であっ旋が終了する事があります。
1.訴訟や調停にて審議が継続中である事が、協議の途中で判明した場合。
2.担当の弁護士が協議の経過から、和解の成立が見込めないと判断した場合。
3.被害者が和解あっ旋を取り下げて、訴訟移行が承認された場合。
4.担当弁護士が和解あっ旋の停止後、6ヶ月経過しても停止事由が解消されない場合。
5.「紛セ」での次回期日を指定せず、被害者が協議継続を希望しないと判断された場合。
6.被害者が「紛セ」利用規定に従わない場合。
|和解あっ旋が停止する場合
「紛セ」が和解あっ旋をするためには、損害の範囲が確定して示談協議が開始できる状態であることが前提になります。
治療が継続している場合や、後遺障害の等級申請や認定等級に関して異議申し立てをしている事が判明した場合、そして「自賠責保険・共済紛争処理機構」に対する調停申立手続が進行中である場合は、示談協議が開始できる状態とは言えないので、和解あっ旋の停止事由になります。
その他、「紛セ」が和解あっ旋を進めることが困難であると判断された場合も停止される事になります。
|受付時の判断で和解あっ旋を行わない場合とは
「紛セ」へのに申し立て手続きは、面談にて状況や詳細を確認して受付られます。
受付の時点で判明した状況によっては「紛セ」での協議は不可の場合や、なじまないと判断される場合があります。
1.受付の時点で訴訟や調停が行われている場合。
2.当事者間で、既に判決の確定や和解が成立して、賠償問題が解決している場合。
3.「紛セ」以外の他の裁判外紛争解決機関において、既に手続きが取られている場合。
4.申立人が、賠償請求に関して権利や権限を有していないと認められる場合。
5.不正請求や不当な目的で、和解あっ旋の申込みがされたと判断された場合。
6.弁護士法第72条(非弁行為に関する規定)違反の疑いがあると判断された場合。
7.申し立ての事案が、以前に手続が終了している同一事案である場合。
8.その他、和解あっ旋を行う事が困難な場合や適当ではないと認められた場合。
但し、担当の弁護士があっ旋を不調と判断した場合は、その決定を当事者双方に通知することになりますが、通知を受けた後14日以内に不服を前提とした審査の申立をすることはできます。
|和解あっ旋が不調になったら次は審査に進みます
和解あっ旋をしても合意に至らない場合は、申立人や加害者等の当事者が「紛セ」の審査会に審査請求をすることが出来ます。
審査請求をすると、「紛セ」の上位組織である審査会を開催し、審査や裁定が行われます。
審査会は、法律学者や裁判官経験者及び経験豊富な弁護士が選任され、3人の審査員で構成されます。
審査日には当事者に対して、事故内容や賠償などの争点に関しての説明や主張を確認の上、審査を経て、最終的には裁定を行います。
裁定とは、和解に至らなかった損害賠償の争点に対して審査会が下した決定のことです。
申立人は、決定告知を受けてから14日以内に「紛セ」に対して、裁定に同意するか不同意かを回答しなければなりません。
実務上では経験がありませんが、相手方が保険会社ではなく加害者本人の場合には、加害者も「紛セ」の裁定結果に拘束されませんので、被害者が同意したとしても、加害者が同意しなければ裁定は成立しません。
また、検討中であったり回答されないまま期限が過ぎた場合は、裁定に不同意と看做されます。
不同意になると、裁定での解決にはならないので、訴訟提起等の他の方法によってを解決を図る事になります。
但し、被害者が裁定の内容に同意した場合、相手方が保険会社であれば、保険会社は裁定に従うとの取り決めがあるので、裁定の内容で和解が成立する事になります。
その後は、和解成立と同様に示談書または免責証書が作成されて、取り決められた内容に従って賠償金を支払います。
|費用負担はありません!
「紛セ」を利用するに際して、一切の費用負担は有りません。
相談される場合も、和解斡旋でも審査に進む時でも無料ですが、「紛セ」まで出向く交通費や連絡等の通信費等は、自己負担になります。
自動車を保有していない人や、高齢になって免許証を返上して自動車保険の必要がなくなった等で、弁護士費用特約が使用できない被害者にとって「交通事故紛争処理センター」の利用価値は高いと思います。
「交通事故紛争処理センター」では示談や和解を斡旋してくれる!
