|通院交通費の請求について保険会社が認める基準がある!
最初に、通院交通費は必要で妥当な範囲が基本なので、公共交通機関を使用するのが原則になります。
自家用車での通院はガソリン代での請求になり、タクシーを利用する場合は条件があるので保険会社との事前協議をお勧めしたい。
「治療費」や「休業損害」「傷害慰謝料」と主だった賠償項目以外にも、金額的には主項目と比較して低くなりますが、こだわると協議が難航する賠償項目があります。
それは、「通院交通費」です!
被害者は、交通事故によってケガをした治療のために、医療機関に通院するための費用を支出せざるを得なくなります。
通院交通費は、交通事故の損害賠償において人的損害の内、積極的損害の主だった賠償項目のひとつです。
実際に支出した金額がそのまま請求額になるので問題はないのですが、通院の手段や支出の範囲について争点になる場合があります。
つまり、支出をした通院費の請求額が、そのまま全額認定するのが妥当か否かの判断が必要になり、状況によっては全額賠償されるとは限らず基準に沿って認定されることになります。
自賠責保険では、通院費については「必要かつ妥当な実費」という支払基準を定めています。
この必要かつ妥当な実費は、自賠責保険に限った基準ではなく賠償上は当然なのですが、「必要で妥当」という範囲は?となると曖昧な基準と感じてしまうのかも知れません。
通院費は、自宅から通院先の医療機関までの妥当かつ合理的な経路になりますが、通院先の医療機関が勤務先や職場の近隣にある場合の交通費は、勤務先や職場を起点として計算することになります。
よって、勤務先や職場から医療機関の往復が認定の範囲になりますが、土曜日など仕事が休みの日に勤務先や職場の近くまで通院する日は、自宅を起点にした通院費を別途認定することになります。
|通院交通費の個別かつ具体的な認定範囲は?|
|公共交通機関や徒歩で通院した場合|
医療機関への交通手段としては、原則として電車やバスなどの公共交通機関を利用する事が基本になります。
また、経路についても、自宅に近い最寄り駅から通院先の最寄り駅までとされています。
複数の通院経路がある場合は、金額や所要時間等よって最も合理的と判断される経路の金額を認定することになります。
バスや電車等の公共交通機関を使用する場合は、金額が定額で交通費として必要かつ妥当な実費と判断されているので、領収書の提出は不要になります。
保険会社は事故対応の初動段階で、被害者に必要書類を送付するのですが、そのひとつに「通院交通費明細書」があります。
その「通院交通費明細書」に最寄り駅や経路、金額などを記入し提出してもらうことで、担当者は区間や金額を容易に確認出来るので領収書などの添付書類も不要ということです。
次に、徒歩による通院ですが、費用などの実損害がないために賠償の対象には該当しないことになります。
中には徒歩で通院しておきながら、発生していない通院費用を損害として請求してくる被害者もいますが、実際の支出がないので請求は認められないことになります。
それ以上に、歩いて通院できるレベルのケガであると判断されることになるでしょう。
但し、通院先の医療機関が徒歩圏内にあるため実際は徒歩で通院したが、その経路が例えばバスの停留所が1区間でもある様な場合は、実務的には1区間分のバス代の認定は可能にはなります。
公共交通機関による通院は交通費としては最も安価であり、かつ妥当な実費として判断されるため、担当者は実態を確認しないでそのまま認定しているというのが現状です。
また、通院先の医療機関が通勤定期や通学定期の圏内にある場合は、実損害が無いためにこれも通院費として認定は出来ません。
この場合は、通院手段が徒歩と同様で、被害者は通院費を支出したとはいえないことになるからです。
細かく言うなら、通院先の医療機関が定期券の圏外に有る場合は、定期券の圏内から効率よく出て行って効率よく戻るまでの交通費は、損害として認定は可能になります。
つまり、通院費として認定できるのは、実際に交通事故により病院へ行くための費用を支出した場合に限られるという事が原則になります。
|自家用車で通院した場合|
事故によるケガが軽傷だったので、自家用車で通院した場合に認定する通院費はガソリン代になります。
具体的な算定の方法は、基本的には自宅から通院先までの妥当な経路の距離により計算します。
自家用車の車種や大きさによって燃費は違いますし、またガソリン代の小売価格が短期間で変動する市場なので、その都度の対応が実務的に困難な状況もあるために、燃費や市場価格等は考慮されず、ガソリン代は一律に1Kmあたり15円として計算されます。
計算式は、 「自宅から通院先までの距離(km)✕15円✕2(往復分)✕自家用車による通院日数」になります。
ガソリンの1ℓ単価が大よそ150円前後で小売りされている現状と、車の燃費が1ℓ当り10km位は走行する今時の車では低燃費の部類で計算したとしても、1kmあたり15円の認定額は実態に大きくかけ離れているとはいい難く、決して安いとはいえない認定金額と思います。
ガソリン代は、一律の定額で計算するために通院費の請求に際して給油した領収書は不要となります。
自家用車通院した際に利用した、医療機関の駐車場や近隣の有料駐車場の費用については領収書にて認定が可能になります。
|タクシーを使用しての通院は注意が必要になります|
通院費の認定について争点になりやすいのが、タクシーを利用した場合です。
賠償上(自賠責保険も任意保険も)は通院費の「必要かつ妥当」な範囲として、公共交通機関や自家用車の利用を想定しているからです。
しかし、例えば足の骨折等で通院する際に付添い人がいない状況や、歩くことが困難であるため公共交通機関の利用には支障や困難が伴う場合、被害者が高齢で著しい症状が認められた、または通院先が交通の不便な場所にある等の諸事情によっては、タクシー利用の相当性や必要性を認めることになります。
また、付添いが必要な被害者ならタクシー通院の可能性が高いと思いますが、やはり個別の判断になるのでしょう。
付添い者が、同乗した場合は付添い者の交通費は、独自に発生する事はないのが普通です。
被害者が12歳以下の場合は、交通費を含めて付き添い看護料定額が認定されますので、やはり独自の交通費の発生はないものと判断しています。
「通院交通費」が賠償協議の争点になるほとんどは、足や下半身のケガでは無く、例えば「むち打ち症」などのケガでタクシー通院をする期間です。
事故当初に使用期間の目安を協議出来ればいいのですが、初期症状やケガの状態から使用範囲を見込むための情報が不足している場合が多い。
タクシーを利用する期間によっては、損害額も大きくなりますが、被害者側にしてみたら公共機関や自家用車通院と比べても明らかに「楽ちん」です。
保険会社は妥当な認定期間を模索するために、医療照会等で根拠を探すのですが、その期間にも通院費がかさむ状況が継続しているのが普通です。
基本的にはタクシー利用期間は、原則として急性期と呼ばれる期間。
少し緩めてひとつの目途としては、急性期+10日前後!が限度になる可能性は高い!
但し、下肢骨折や松葉つえ使用や高齢者等のケガや被害者の特性などを斟酌して、最終的には個別事情によって判断することになるとは思います。
急性期や相応の期間を超えてタクシー通院の費用を請求する場合は、その根拠として医師の証明など、必要性や妥当性を立証する義務は被害者側に有るということになります。
電車やバスなどの公共交通機関が利用できる、あるいは公共交通機関を利用するのが妥当な状況や、合理的な通院方法であるのにタクシー通院をした、或いは車を運転するのが面倒でタクシーを使って通院したなどの理由では、通院費としてタクシー代を認めることはできないでしょう。
|タクシーで通院する場合の注意点|
タクシー通院をする場合は通院を開始する前に保険会社と協議して事前に認定を取り付けてから利用するか、タクシー利用をした後に保険会社と協議して後付け認定を取り付けるかは被害者の判断によります。
「むち打ち症」などの軽傷の場合に限らず、下肢骨折などであってもタクシー通院をする等の判断は保険会社の了承を取り付けてからの利用をお勧めしたいとは思います。
被害者自身の判断だけでタクシーでの通院が妥当と思い、長期間タクシー通院されていた場合は自己負担になる可能性も出てきますので注意が必要です。
「必要かつ妥当性」を認める客観的な根拠や理由が無い場合、訴訟で請求されたとしてもタクシー代金を支払う判断には至らない傾向にあります。
また、タクシー通院が必要ではなく妥当性も相当性もない状況にも関わらず、保険会社と協議もせず、或いは保険会社が認めていない状況でタクシー通院をした場合タクシー代金は自腹になる覚悟が必要になってくるでしょう。
ここで少し保険会社側が辛くなるのは、急性期のみでタクシー通院は終了している状況と担当者が勝手に思い込んで被害者に確認連絡をせず、気が付いたら相応の期間タクシー通院をしていた場合です。
これは、担当者の業務怠慢の結果といえる場合もあります、そして残念ながら毎年少なからず発生しており、全ての期間ではありませんが譲歩して認めざるを得ない場合もあります。
しかし、タクシー通院は総じて例外的な対応であることは確かなのです。
|保険会社とタクシー通院についての事前協議|
タクシー利用の妥当な範囲や期間について、被害者本人が自分のケガの程度を一番良く知っていると思いますので今後の回復見込み度合いを推定して、例えば「後2週間位で症状が改善される感じがしていますので、それまでタクシーを利用させて欲しい」等、具体的な利用期間を申し出ることで、保険会社の承認が取り付けやすくなります。
事故日から1週間位の急性期と呼ばれる期間は、保険会社も立証義務などと言わないでタクシー通院を認めると思います。
急性期として1週間程度と期間を限定した場合のタクシー利用について、通院や通勤を問わず、損保の担当者に相談してみては如何でしょうか。
利用期限が明確で、ケガの程度から相応の期間であれば、保険会社は了解してくれる可能性は高いと思います。