|交通事故が原因のケガで休業損害が認定されるには?
交通事故でケガをして、治療や症状によっては就業できなかった!あるいは十分な稼働が出来なかった事で、収入が減少した或いは全く無くなった等の損失が生じた場合に休業損害が認められます。
休業損害の要件は、現に休業した事と十分な稼働が出来なかったために収入減が生じた事実が必要です。
障害が残ったことによる症状固定以後の収入減少に関しては、休業損害ではなく労働能力の一部及び全部が喪失したとして、逸失利益という賠償項目に変わります。
交通事故で生じた損害項目の中でも、休業したことによる損害は生活を営む上で影響が大きいので、立証作業を含めて早期の対応が必要になる場合が多い。
|休業損害が認定される期間は?
休業損害が支払われる期間は、受傷から治癒や症状固定までの全期間が認められるという事にはならず、基本的には休業しなければならない必然性があることが重要になります。
休業の日数は、事故発生日から症状固定日及び治ゆ日までの治療が必要であった期間の範囲内とし、認定される休業日数は治療期間の範囲内で、傷害の内容や程度、治療経過、被害者が従事している業務内容を勘案して妥当な日数となります。
よって、被害者本人の判断で休業してもいいのですが、休業した事実や状況を証明されたとしても、日数や期間の全てに損害が生じた!として認定できるかとなると・・別の話しになります。
被害者は、入院や通院によって治療を行うことになるのですが、休業を認定する場合においてケガの程度や医師の診断によって入院治療が適正としていた期間については、入院という事実より就労不可の状況が明確なので休業を認めるのに問題は無いでしょう。
通院期間における休業については、事故の損害程度や職種や仕事の内容、ケガの程度などから個別に判断することになります。
例えば、事故から一週間前後の安静が必要とされる期間や、退院直後の数日間はまだ重い症状が残存している場合もあると判断し、休業の必然性を認めることになると思います。
|休業損害を請求できる職種や範囲は?
交通事故による休業損害の請求が可能な人は、仕事や業務等の労力を提供して対価を得ている全ての人が対象になります。
具体的には、給与所得者や、事業所得者、自営業者、会社役員、家事従事者(主婦)、アルバイト、パートタイマー等全ての職種といっていいでしょう。
状況によっては、一部の無職者も対象になる場合もあります。
それぞれの職種や業種等により請求方法や証明方法は違ってきます。
休業損害を請求する給与所得者は、会社や所属事業所等から「休業損害証明書」という定型の用紙に証明してもらう必要があります。
事業所得者や自営業者は「休業損害証明書」はありませんので、基本的には前年度の確定申告書などの公的な書類で所得を証明してもらうのですが、休業期間については明確な証明方法はありません。
基礎収入や休業日数の算定は個別に判断をするのですが、これが結構大変な作業になります。
そして、主婦などの家事従事者には、家事労働に対して報酬が発生するという認識が元々ありません。
しかし、主婦業に支障が生じて外部の職業家政婦を依頼した場合は、対価として費用が発生することになります。
この状況を受けて、家事労働も労務価値があるとして、交通事故のケガによって家事労働に支障が生じた場合は休業損害が発生すると判断されています。
アルバイトやパートタイマーの場合においても、交通事故が原因で欠勤等したときは休業損害が認められます。
その場合は、給与所得者と同様に「休業損害証明書」の作成が必要になります。
年金生活者や学生、失業者等の無職者は労働対価としての収入を得る蓋然性が認められないので、通常は休業損害は認められません。
但し、無職者であっても治療期間中に就労の見込みがあった場合は、休業損害が認められることもあります。
その場合は、失業前の所得や経歴及び職業並びに性別、年齢、学歴等を参考にしてその休業損害を推定することになるので、これらの事実について立証書類を求めることになります。
どんな資料が必要で提出可能なのかは個別に判断するしかありません。
他に地代や家賃収入、恩給や年金等の収入で生計を立てている場合は事故によるケガが収入に影響しない、つまり労務を提供して対価を得ているという前提が無いため、休業損害は原則として認められません。
ここでも但しですが、例えば被害者が所有するアパート等の管理が主な業務になっている不動産業を被害者が営んでいる場合、ケガが影響して不動産業からの収入減少が証明された場合は、休業損害が認められる事も有ります。
|休業損害を算定する基準は?
休業損害等の交通事故における損害賠償額の算定について、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準があります。
通常は、弁護士基準が最も高額になり、次は保険会社の任意保険基準そして自賠責保険基準が最も低くなります。
保険会社が休業損害を算定する場合は、自賠責保険基準や任意保険基準を採用するのが一般的です。
最も高額になるといわれる弁護士基準によって休業損害を請求するためには、弁護士が示談協議に介入してくることが要件になります。
[自賠責保険基準]
交通事故の被害にあって、休業により収入減少があった場合や有給休暇を使用した場合は、休業1日当たり原則として6,100円が認定されます。
休業損害証明書や添付書類、確定申告書等の立証資料により休業損害の基礎収入が日額6,100円(2020年4月以前の事故は日額5,700円)を超えることが明確な場合は、19,000円を限度としてその実額が基礎収入として認められます。
立証書類によって基礎収入の日額が6,100円を下回る様な場合は、6,100円まで引き上げる事になるのですが、一部パートやアルバイトなど労働時間が設定している基準より短い、或いは少ない勤務状況の場合は6,100円まで引き上げず実額のままで認定される事になります。
自賠責保険基準における休業日数は、基本的には実休業日数が基準とされて被害者の傷害の態様、実治療日数等を勘案して、治療期間の範囲内で決定されることになります。
[保険会社の任意保険基準]
自賠責保険による限度額や認定基準を超える場合は、任意保険基準によって算定されます。
任意保険基準は、保険会社によって多少の違いはあるといわれていますが、現状は認定のプロセスや金額にほとんど差は無い様です。
任意保険は自賠責保険の上乗せ保険である事より、基本的な認定の基準などは自賠責保険に近い認定金額になっています。
一般的には、休業期間中の現実収入の減額分が証明可能な場合は、その金額を認定する方向で検討しますが、それが困難な場合は事故前の収入を日額に換算して、休業日数を乗じて算定する場合もあります。
就労していた状況によっては、休業日数を割合認定する場合や、逓減して認定する場合もあります。
減額する場合の根拠は、被害者からの同意に基づいた医療照会等の回答による、医療上の見解で判断することが多い。
[弁護士に依頼して算定する場合]
裁判所や弁護士、または「交通事故紛争処理センター」等が休業損害等の賠償額を算出する場合、地域等に応じて通称「赤本」正式名称は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」や「青本」の「交通事故損害額算定基準ー実務運用と解説」を用いています。
被害者が主婦や、給与所得者等の個人特性等によっては「労働賃金センサス」を基準にしたり、3ヶ月の収入を90日ではなく稼働日数で割ったり等で日額を算出します。
|休業損害を算定するために必要な情報は?
弁護士基準も、任意保険基準も基本的な算定方法は自賠責保険の基準とほぼ同じです。
交通事故発生前の収入状況に基づき、基礎収入である収入日額を算出し、ケガによって就労不能や就業制限となった休業日数を乗じることで、休業損害額を算定します。
休業損害=基礎収入✕ 休業日数になります。
|職業や職種等の基礎収入算出方法
休業損害の算定の基礎になる数字です。
原則として、事故当時の被害者の所得額を基準として算定するので、所得額を証明してもらう事になります。
例外的に、パート勤務をしている兼業主婦の給与部分や就労後間もない若年者など、事故当時の所得を基準にするのが不合理と認められるケースもあります。
この場合は、実態や状況に合わせて証明内容や方法について個別に検討するのですが、職業や職種に関わらず基本的には所得額を証明するための資料として、公的な書類の提出を求めることになります。
基礎収入の算出方法について、給与所得者やアルバイト、パートタイマーは、勤務先で作成される「休業損害証明書」と源泉徴収票などの添付書類が証明書類になります。
基礎収入の日額は、証明書類を基に交通事故の前3ヶ月の給与支給額を90日で割り算をして算出します。
事業所得者や自営業者等については、前年度の確定申告書が証明書類になり、申告所得額や固定費等から基礎収入を算出します。
会社役員の場合は、役員報酬の内ケガによって休業した事で収入減額の対象となる「労務対価部分」を明確に算出してもらうことが必要になります。
基礎収入の前提となる収入は、所得税等の税金控除前の額面給与額か?税金が控除された後の手取給与額か?という問題がありました。
最高裁の昭和45年7月24日判決によって「損害額の算定にあたっては税金額を控除すべきではない」という非控除説を採用しており、結果として実務上では非控除額が定着しています。
|休業した日数は全て認められるか?
交通事故が原因で休業した日のうち、事故の損害や受傷状況、治療経過、職務の内容等を鑑みて、休業の妥当性や相当因果関係有りとされる範囲を休業日数として認められています。
給与所得者やアルバイト、パートタイマーの場合は、雇用先や雇い主が「休業損害証明書」で休業の日数を証明してもらうことになるのですが、これも証明された休業日数の全てを認めるという事にはなりません。
事業所得者や自営業者の場合は、給与所得者やアルバイト等の様に休業日数を証明する書類もないため、客観的に休業日数を証明することは困難です。
一般的には事故の状況や損害の程度、ケガの症状や治療経過、業務内容等から休業の必要性や妥当性を判断して休業日数を認定することになるのですが、基準としてはかなり曖昧になります。
実務的には、実治療日数を認定している場合が多い。
治療期間が比較的短い場合は、実治療日数=休業期間として協定する場合や、中長期に及ぶ場合は逓減方式を採用して合意に至ることも有ります。
家事従事者についても、休業を証明するという書式や方法はありません。
実務的には病院等に入通院した実日数で認定されるか、治療期間の経過に応じて家事労働の支障を確認した上で逓減方法などを採用する場合もあります。