|後遺障害の逸失利益を算定するのに必要な「中間利息控除」とは?
支払われる損害賠償金が「中間利息が控除」されるということはことは、どういうことなのでしょうか?
賠償金が提示される際に、慰謝料は〇〇円、逸失利益は〇〇円・・と表記されるのが一般的ですが、その中で「中間利息分として〇〇円控除しています」、とは記載されません。
だからこそ、被害者側にとっては知っておくべき項目のひとつになると思うのです。
被害者が後遺障害の等級に該当した場合、損害賠償項目のひとつに「逸失利益」があります。
逸失利益とは、被害者が後遺障害を負わなければ、将来得られるはずであったと推察される経済的な利益のことをいいます。
逸失利益がいくらになるのかを算出するための計算式があります。
[逸失利益=基礎収入✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数]
簡単にいうと、基礎収入は被害者が個別に証明する収入をいい、算定基準は事故にあった前年度の収入になります。
労働能力喪失率は後遺障害の等級に応じた経済的活動(仕事など)の喪失割合を指します。
そして、「労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数」のことを「中間利息控除」と呼んでいますが、何故に利息控除されるのでしょうか?
「中間利息控除」とは何?採用する係数によって、被害者にとって有利不利はないのか?控除の利率は現実的なのか?
極力簡潔に・・とは考えていませんが、深入りしない程度に内容を理解頂きたい。
|なぜ逸失利益を認定するのに中間利息が控除されるのか?
逸失利益を算出するには、被害者の事故が発生した時点での年収、喪失した労働能力や期間などの状況によって違いますが、将来収益が得られるであろうと判断されている年数分全額が計算されるので大きな金額になるのが普通です。
そして、「逸失利益」を含めた損害賠償金は、基本的に一時金で支払われます。
将来の5年先や10年先に受け取るべき収入減収分の「逸失利益」を、他の項目の損害賠償金と一緒に示談成立によって全額支払われる事になります。
一時金で受け取った賠償金を銀行に預け場合は利息が、運用した場合は収益が発生します。
この利息や収益分を一時金で支払われる「逸失利益」から控除されるのが「中間利息」です。
簡単かつ単純に例えると・・・、月額20万円の利益を2年間失ったとした場合です。
被害者は、[20万円✕2年間(24ヶ月)=480万円]の賠償金を一時金で受領したとします。
被害者は、本来1ヶ月目は20万円を受領するので、残金の460万円を銀行に預けていた場合には利息が付きます。
2ヶ月目も20万円受領するので、残金の440万円に利息が付くことになります。
3ヶ月目も同様考えると、420万円に利息が付きます。
以上の様に、逸失利益を一時金で支払うと、結果的には利息分まで余計に払い過ぎる事になるため、運用したり預けたりした場合の利息分を差し引いて支払うという考え方が根拠になります。
これが、中間利息を控除するということです。
|中間利息を控除するための係数とは?
中間利息控除の算定方法には、中間利息を複利計算によって算定する「ライプニッツ方式」と単利で計算する「ホフマン方式」の二通りが基本になっています。
東京地裁、大阪地裁、名古屋地裁が1999年に「中間利息控除方式は、ライプニッツ方式を採用する」旨の共同提言した以降は保険会社を含めて実務的には「ライプニッツ方式」が主流となっています。
何故「ホフマン方式」ではなく「ライプニッツ方式」を採用したのでしょう?!に拘ると、説明が長~くなってしまいますので、簡単に触れておきます。
「ホフマン方式」を採用しなかった理由に「ホフマン方式」は中間利息の控除期間が36年以上の長期間にわたる場合は、賠償金の元本から生じる利息が年間の逸失利益を超えてしまうという不合理ともいえる結果が生じるからです。
被害者にとっては単利計算で、控除する中間利息が小さく算定される「ホフマン方式」の方が有利ということになるのでしょう。
しかし、「中間利息控除方法」のみではなく、「基礎収入額の認定」との組み合わせ方が重要になります。
「基礎収入の認定方法」と「中間利息の控除方法」についてですが、東京地裁が採用していたのが、若年者の逸失利益を算定する場合に、賃金センサス全年齢平均賃金と「ライプニッツ方式」を組み合わせる方法でした。
一方、大阪地裁や名古屋地裁が採用したのが、若年者の逸失利益の基礎収入を賃金センサスの18歳から19歳の平均賃金を採用し、「ホフマン方式」で中間利息を控除する方法でした。
東京地裁の算定は「ライプニッツ方式」を採用していますが、大阪や名古屋地裁より基礎収入に高い数値を使うため、逸失利益は、東京地裁の組み合わせの方が高く算定されるという事になります。
|主流であるライプニッツ方式による中間利息控除
「ライプニッツ方式」での中間利息控除は、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を求めた上で、これを労働能力喪失率に相当する喪失収入額に乗じる方法で行います。
「ライプニッツ係数」を求めるのに必要とされる、被害者の労働能力喪失期間は、症状固定時を起算点として算出するのが実務上の主流になっています。
したがって、一般的な有職者の場合は、症状固定時の年齢を67歳から差し引くことで容易に就労可能年数を求めることができます。
症状固定時の年齢が満18歳以下の被害者の場合は、症状固定時の年齢から67歳までの期間に対応する「ライプニッツ係数」から、18歳に達するまでの期間に対応する「ライプニッツ係数」を差し引くことで求めます。
例えば、症状固定時が14歳の被害者の「ライプニッツ係数」は?
・就業の終期67歳 67歳-14歳=53年の「ライプニッツ係数」が、18.493
・就業の始期18歳 18歳ー14歳=4年の「ライプニッツ係数」が、3.546
・就労可能年数 53年ー4年=49年
・適用係数 14.947=(18.493-3.546) になります。
参考として給与所得者の「逸失利益」の計算事例になります。
症状固定時の年齢が45歳、年収500万円の給与所得者が交通事故で肩関節の可動域制限の障害が残存。
後遺障害の等級第10級10号が認定された場合の「逸失利益」の算出計算式は?
基礎収入 =500万円(事故にあった前年度の年収)
労働能力喪失率=27%(後遺障害第10級の喪失率)
中間利息控除=13.1630(45歳から67歳まで22年間のライプニッツ係数)
計算式に当てはめてみると・・!
[500万円✕27%✕13.1630=逸失利益は 17,770,050円]という事になります。
|逸失利益と生活費控除について
被害者が死亡した場合は、逸失利益から生活費を控除する考え方が採用されていますが、後遺障害による逸失利益の場合は、原則として逸失利益から生活費は控除されません。
過去の裁判例では、寝たきりの植物人間状態等の重度後遺障害者について、健常者よりも日常生活において支出する費用が少ないとして生活費を控除した事例もありましたが、現在では生活費を控除しない裁判例が多数を占めています。
後遺障害が認定された被害者が、事故と関係が無く別の原因によって途中で死亡した場合でも、後遺障害が残存したために支払われた逸失利益について、原則として考慮しないというのが現時点における最高裁の見解にもなっています。
被害者の労働能力喪失期間は、死亡時まで認定されることにはならないので、賠償上では問題あるのかも知れないという考え方はあります。
例えば、67歳まで労働能力喪失期間を認められた被害者が、事故と関係が無く60歳で亡くなった場合です。
7年間分、余分に支払った分をどうするのか?
しかし、現実として被害者の生存状況の後追い調査自体は不可能です。
偶然のきっかけで、逸失利益を受領していた被害者が事故と関係がなく亡くなったことが判明した場合、残りの「逸失利益」分の賠償金は返還して下さい!が通るならば、途中で亡くなった被害者がいた事が知られない場合とでは、公平性に欠く!という考え方が成り立つのかも知れません。
しかし、賠償上の観点からは交通事故と因果関係がなく死亡された被害者に支払われた「逸失利益」は、返還すべきとの主張が正当と思ってしまいます。
不当利得になる可能性を含んでいるとの認識も誤りではないでしょう?!
他にも、この「逸失利益」に関しては争点になると考えられる問題点もあるといわれてはいます。