交通事故によるケガの治療に健康保険を使用するメリットは?

対人賠償

|交通事故の治療に健康保険や労災保険は使えます!
交通事故による治療は健康保険を使わない、いわゆる自由診療による治療が全体の約90%以上の割合を占めています。

昭和44年10月7日、当時の大蔵省自賠責保険審議会答申に対する日本医師会の「自賠法関係診療に関する意見」において、「交通事故による人身事故の治療は緊急に処置しなければならず、かつ受傷の複雑性から高度な治療を必要とする為、社会保険診療になじまない」という意見が出されました。


保険会社が一括払い対応を依頼する際に健康保険の使用を申し出ると、「当院では交通事故の患者は自由診療のみの対応になります」と言い切る病院も未だにあるのです。


全ての病院ではありませんが医療機関側には、「交通事故の治療は自由診療で行うもの」という意識が根強くある様です。


医療機関にしてみたら、自由診療は点数計算が高くなることと、交通事故の場合は保険会社が支払いをするので、前月分の治療費は請求から1~2週間以内に支払われるケースが多いので収益化が早い。


医療機関にとっては交通事故の患者は、大歓迎なのだろうと損保担当者のほとんどは間違いなく思っています。


しかし、
交通事故によって受傷した場合でも健康保険を使用して診療を受けることに何の問題もありません。


厚生労働省も国民健康保険課長通知によって、交通事故の場合でも健康保険を使用して診療を行うことができることを繰り返し公表及び情宣してきました。


被害者が、病院の窓口で健康保険証を提示した場合、医療機関は交通事故を理由に拒否はできない!はずなのです。


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|損保側も健保使用の治療を積極的には進めていない現状がある!

医療機関だけではなく、保険会社側にも健康保険使用による治療を積極的に勧めていない状況があります。

事故による治療で健康保険を使用するには、例えば国民健康保険の場合なら「国保連合会」等の健保管轄組織に了解を取り付けて、「第三者行為による傷病届」なる書類を提出しなければなりません。


自動車事故で加害者の過失によってケガをした場合、自分以外の第三者の行為によりケガを負わせられた事になるので、治療費は本来ケガを負わせた加害者が負担するのが道理です。


しかし、
業務上や通勤経路上など労働災害や通勤災害でなければ、被害者の過失割合に関係なく自分の健康保険を使って治療を受けることができます。


この場合、加害者が支払うべき治療費を健康保険が立て替えて支払うことになります。


そこで、健康保険の管轄機関が後日、加害者に対して健康保険で給付した費用を請求するために加害者側からの「第三者行為による傷病届」を提出することが必要になります。


この書類によって、「加害者側(保険会社)は健保の管轄機関からの求償を受諾しますので、健康保険給付をお願いします」的な意味合いの手続きになります。


但し、求償を受諾する過失割合は、保険会社は管轄機関と独自に協議して決めることが出来ます。


例えば、保険会社同士で事故の過失割合は80%:20%で協定が済んでいても、健保の管轄機関と協議して過失割合を70%:30%で協定して70%で求償を受けるという状況も起こります。


ただ、この「第三者行為届」の書類作成が損保担当者にとっては結構、手数と時間を要する作業なのです。


書類の取り寄せから始まり、加害者や治療を受ける被害者双方の署名や押印の取り付け等が必要になるため、書面を完備させる手続きを面倒と感じている人身担当者はかなり多いと思います。


そして、手数がかかって面倒なのは、健保使用に切り替える手続きだけではありません。


保険会社の担当者は、ケガの程度や被害者特性(例:高齢者で休業損害が発生しない等)や、過失が生じる事案の概算などを経験則から推察して、自由診療であっても賠償総額が自賠責保険の範囲内で解決出来るだろうと見込んだ場合には、健康保険の使用を積極的に進めていません。


示談や支払い終了した事案は自賠責保険から保険金を回収して、一日でも早くペンディング事案リストから消去したいのが担当者の心情としてあります。


健康保険を使用した場合は、健康保険の管轄機関からの求償を待たなければなりません。


この求償関係書類が送付されて来るのに、治療終了後2ヶ月以上を要することも少なくないのです。

その健康保険の求償に対応するためだけに、示談完了している事案であっても一件書類は担当者の机の引き出しに保管されて、ペンディング事案として残ります。


結構、鬱陶しいのは確かです!健康保険の使用を被害者に積極的に進めないのも、正直に言うと理解は出来ます。


全事案を健保使用による対応は現実的には無理があります・・、悩ましいところです。


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|事故状況によっては健康保険を使用して治療を受けるメリットは大きい!

自由診療による診療単価は、私立病院では健康保険の約2倍と高額であるため事案の状況によっては自賠責保険の傷害保険金の大半が・・、場合によっては全額が治療費に充当されてしまうことも少なくありません。

自賠責保険の趣旨である被害者救済に沿わない状況も起きています。


極端な例ですが、健康保険を使用して治療を受けた場合の治療費が60万円と仮定した場合、これを自由診療に置き換えると120万円になるという事です。


自賠責保険の保険金全額が、治療費だけで無くなるのです。


まして、被害者に過失がある場合、被害者自身の受け取り金額は自賠責保険以外では減額されるため、被害者が想定した以上に減少する事態が生じます。


事故状況から、中期以上や相応の治療期間が見込まれるケガや、被害者にも過失が問われる事故の場合は、被害者側から積極的に相手方損保の担当者に健保使用を申し出る事を検討しても良いかも知れません。


例え、加害者側の保険会社であったとしても、健保使用の相談してみる価値はあると思います!


また、加害者側においても、被害者が受診した医療機関がいわゆる過剰診療、濃厚治療を行い不当に高額な治療費を請求していると主張して医療費の相当性をめぐって裁判に発展し争われる事案がかなりの件数見受けられる様になっています。


この様な無用な争いを避け、
被害者の実質的な救済になる様に自賠責保険や任意保険を効果的に充当するためにも、健康保険による診療を活用及び検討すべきと思います。


健康保険には診療のほかに種々の療養給付がありますが、自動車事故においてもこれらの療養給付を受けることもできます。


また、起きた交通事故が通勤災害である場合には、労災保険による給付を受けることもできます。


被害者にも過失がある事故や加害者が任意保険に加入していない場合、または任意保険の保険金額で損害の全てを補うことが出来ない様な事案では、社会保険による給付を請求することで被害者が被った実損害全てや近い金額を填補できることもあるので、被害者にとっては少しでも不安や心配を払拭する可能性も高くなるでしょう。


したがって利用できる社会保険の給付は、これを利用する方が望ましい思うのです。


但し、政府が被害者(受給権者)に社会保険による給付をしたときは、政府は給付をした範囲で被害者の損害賠償請求権を代位取得するため、その分だけ被害者である受給権者の損害賠償請求権は減縮することにはなります。


また被害者が損害賠償義務者から損害賠償を受けたときは、その範囲で政府は保険金給付義務も免れます。

                            

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