|残念なことに飲酒運転による事故が無くなりません!
ここ数年の年間交通事故件数は、約50万件を前後する数字になっています。
その内、約3000件以上が飲酒している状況での事故であり、更に200件以上は死亡事故です。
2006年の福岡市や2014年小樽市銭函で起きた、飲酒運転が原因の重大で痛ましい事故は未だに記憶に残っています。
飲酒運転に対して、社会的にも厳しい目で注目され、法的にも厳罰化や道交法の改正でアルコールの提供者も罰せられる等の効果もあって、数字的には減少傾向にある様です。
しかし、依然として飲酒運転を行っている人が相当数いることも事実なのです。
損保の事故対応部署で1年間位の業務経験を積む期間に、飲酒運転による事故対応を経験していない担当者はおそらく皆無でしょう。
飲酒による事故は被害者感情もあって、損害の軽重を問わず事案は荒れることが多い。
飲酒運転して事故を起こした場合、被害者の多くは過失ではなく「故意」で起こしたとの言い方や見方をされる人もいます。
飲酒運転者に対する、周囲の視線もきつくなります。
プライベートな事故でも会社に在籍するのが辛くなって、退職された加害者を何人も見て来ました。
未だに、軽い気持ちで飲酒運転をしている人は、周囲で飲酒事故を起こした人がどういう状況に追い込まれるのかを見ていないからなのでしょう!と思ってしまいます。
|飲酒は脳機能を麻痺、その結果運転に必要な能力を低下させる!
酒類などアルコール飲料や食物を体内に入れると「酔う」のは当たり前で、酒類を飲むのはその「酔いたくて」も目的のひとつだと思うのです。
飲酒事故の被害者が感情的に許せないひとつに、「酔う」という目的をもって酒を飲んで「俺は酒に強いから・・」と言い放って事故を起こす!
「酔う」というのは、体内に取り込んだアルコールが血液によって脳に運ばれ、簡単にいえば特定の脳細胞の器質や器官が麻痺する状態になることをいいます。
その結果、理性や判断力などの考える力や、平衡感覚などの感覚、そして運動機能といった安全に車を運転するうえで必要な能力が低下して、事故を引き起こす確立や危険性が高くなります。
体内に摂取したアルコールの量に比例して、必要な判断能力や運動機能低下の度合いは強まるのは当然なのですが、科学警察研究所の調査結果では低濃度のアルコールでも認知機能や判断能力の低下が確認されています。
「少量しか飲んでいないし・・」「近い距離の運転だから・・」などの安易な判断は禁物だということです。
飲酒して事故を起こしてしまった場合は、被害者の損害が軽かったとしても、通常の賠償内容での解決は困難と思って頂いてもよいと思います。
|酒を飲んで事故を起こすと賠償協議は厳しいことになる!
実例です!居酒屋で軽く食事をしてジョッキ一杯のビールを飲んで、帰宅するために居酒屋の駐車場から公道に出る際、路肩を右側走行してきた無灯火の自転車を撥ねてしまった。
車を運転して僅か数十秒での事故です。
酔っている状態だったのか?や、お酒と事故の因果関係は?の確認もせず、飲酒したという事実だけで賠償上は酒気帯び運転で加算修正されてしまい、自転車側の無灯火や右側通行の過失も全てが消し飛んでしまった。
酒気帯びの契約者に対して、保険会社は自転車側の絶対的な過失は消えない事を説明して片賠の提案もしてみましたが、結果的には被害者側の要求に従い、運転者自ら全賠を選択して過失割合100%:0%で決着させてしまった。
加害者の意思で100%の過失を選択した結果、被害者側の過度とも思える要求にも拒否できなくなる事態も起こります。
酒を飲んでの事故は、被害者に対する心的な負い目もあり、被害者側に譲歩することで穏便な解決などを期待する部分もあるため、通常の公平公正な賠償協議や示談ができなくなるケースが多い。
保険会社としては、事故状況から100%:0%で認定出来ない場合は、被害者に生じる過失分については加害者に負担をしてもらう事になります。
|飲酒運転に対する行政処分と罰則
「飲酒運転」は、お酒を飲んで自動車やバイク、自転車などの運転を要する乗り物に適用されます。
飲酒の量とは関係なく、飲酒事実があれば呼気から酒気帯び運転に該当するアルコール濃度が検出されなくても飲酒運転が適用されます。
呼気のアルコール濃度は関係がない!という事になります。
「酒酔い運転」とは、アルコールの影響で正常な運転が出来ない状態で運転することで、「酒気帯び運転」は、体内に基準値以上のアルコールが有る状態で運転する事をいいます。
罰則は、飲酒運転をした本人だけではなく、飲酒運転者に車両を提供した人や、運転者にお酒を提供した人、飲酒運転者の車両に同乗した人に対しても適用される場合があります。
飲酒運転は重大な違法行為であり事故を起こした場合、被害者からは犯罪者と同様の見方をされることも覚悟しなければなりません。
当然、飲酒運転をした本人には重い行政罰が適用されることになります。
|行政罰|
・酒酔い運転の行政処分
違反点数35点 免許取り消し 欠格期間3年
・酒気帯び運転の行政処分0.25㎎/L以上
違反点数25点 免許取り消し 欠格期間2年
・酒気帯び運転の行政処分0.15㎎/L以上0.25㎎/L以下
違反点数13点 免許停止 免許停止期間90日
|罰則|
・車両を運転した人
酒酔い運転 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
酒気帯び運転 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
・車両を提供した人
酒酔い運転 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
酒気帯び運転 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
・酒類を提供した人または同乗した人
酒酔い運転 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
酒気帯び運転 2年以下の懲役または30万円以下の罰金
酒を飲んで車を運転した人と、車両の提供者は同罪になっている位に、重罪ということになります。
|飲酒運転による事故を起こした場合の自動車保険は?
飲酒運転は道路交通法の「酒気帯び運転等の禁止」で規定されている重大な違法行為です。
飲酒の量と関係なく、お酒を飲んだら車を運転しない!
当然ですが、飲酒している車と事故を起こされる可能性もあります。
飲酒運転をしている相手車両と交通事故に巻き込まれた場合の自動車保険による補償は・・?
飲酒事故を起こした車両側の保険で被害者の損害は補償されることになります。
相手が飲酒運転という重大な法令違反や過失を犯していた場合でも、被害者が被った損害に対する自動車保険の補償には影響がありません。
被害者や被害車両の同乗者が死傷してしまった場合には、飲酒の車両に付保されている自賠責保険や任意保険から保険金の支払を受けることができます。
また、被害者側の車そのものや車に積載していた物が損壊した場合も、飲酒の車両側が加入している対物賠償保険によって保険金を支払ってもらう事もできます。
これは保険制度自体に被害者救済という考え方がベースに有るためです。
加害者側が飲酒運転という重大な法令違反があったとしても、被害者の損害に対する補償は有効と判断しています。
また飲酒運転をしていた車両と事故があったからといって、被害者が加入している自動車保険の補償が受けられなくなることもありません。
自分や同乗者のケガや死亡された場合に補償をしてくれる、人身傷害保険や搭乗者傷害保険や車両そのものが受けた損害を補償する車両保険も使用することができます。
|飲酒した方の損害は加入している自動車保険で対応できるのか?
一方で飲酒運転側の損害は加入している自動車保険で補償はしてもらえるのでしょうか?
結論は、飲酒しての運転という重大な法令違反があるため、自動車保険による補償は制限されることになります。
飲酒運転をしていた運転者が自動車保険に加入していて、人身傷害保険や搭乗者傷害保険を付保していたとしても、運転者本人はこれらの補償を受けることができません。
これは飲酒運転が、人身傷害保険や搭乗者傷害保険等の約款に規定している免責事由(保険会社が保険金を支払わない条件)に該当しているからです。
車自体の損害を填補する車両保険に関しては、飲酒運転をしていた本人が事故を起こした車の所有者である場合は、車両保険の補償は受けらないのは当然ですが、車両の所有者が飲酒運転をしていなかったとしても、車両保険の補償が受けられなくなる場合もあります。
ただし、交差点での出合い頭の事故等の様に、双方の車両に何らかの過失が生じる場合は、過失割合の根拠に基づいて飲酒運転側も、被害者(相手)側の対物賠償保険で損害の一部を支払ってもらう事は可能です。
過失割合については、飲酒による加算修正されますので限りなく100%に近くなりますが・・!
実務的には、飲酒側は逆の「片賠」で相手からの支払を受けない請求放棄や、飲酒による修正後にも相手側に残った過失分を自ら負担する等の措置をとる運転者もいます。
道義的責任や謝罪の意味もあるのだと思いますが、かなりの割合で被害者側は納得しません。
飲酒運転をした、運転者自身がケガをした場合ですが飲酒運転者側の自動車保険では免責であることは説明の通りです。
しかし、飲酒による修正をした場合でもなお、相手方の被害者にも過失が生じる場合は理論的には相手方被害者の自賠責保険に、被害者請求をして自賠責保険金を受けることは可能です。
事故状況によっては、重過失減額された金額になる可能性は高いと思われますが、飲酒した加害者側にしてみたら、唯一の損害填補になるのかも知れません。
|飲酒運転で事故を起こすと大切なものも失う?!
飲酒しての運転は、自分だけではなく家族や会社を巻き込んでの対応になる場合も少なくありません。
事故対応のセンターに配属されて経験の浅い頃、先輩社員のアシスタント的な業務をしていた時代に飲酒事故の対応を初めて経験しました。
契約者の心の油断で飲酒して、酒気帯び運転レベルの状態で加害事故を起こしてしまいました。
被害者は障害が残ってしまい、示談協議は難航しました。
そして、契約者は最もしてはいけない責任の取り方を選んでしまいました。
一瞬の気持ちの隙で、被害者だけではなく自分の家族にも大きな影響を及ぼす可能性は大きいと思って頂きたい!。
大切なものを失わない様に、飲酒運転は絶対にしてはいけないと肝に銘じて欲しい。