|交通事故によって死亡した場合に賠償請求できる項目は?
交通事故で死亡された場合、遺族が請求する損害賠償の項目についてです。
事故現場で亡くなっても、治療を受けている途中等で亡くなった場合でも、死亡されたことによって特有の損害が発生します。
主な賠償項目として「葬儀費や葬儀関係費」「死亡による逸失利益」「死亡慰謝料」があります。
更に、病院等へ搬送されて治療を受けてから亡くなった場合には、死亡による損害の他に、治療費や入院費、諸雑費や状況によっては休業損害、傷害慰謝料など傷害部分の損害項目も請求の対象になります。
|葬儀費や葬儀関係費用はいくらまで認められるのか?
認定される葬儀費用は、交通事故に限らず亡くなった場合に執り行われる「通夜」や翌日の「告別式」など葬儀に関しての一連の費用をいいます。
葬儀費用の全国平均は約120万円、その他に葬儀関連も相応の費用を要します。
葬儀関連費用には、葬儀費はもちろんですが訪問客の接待や、遺体の処置費用、四十九日の法要費用、供養等に要する費用、仏壇や仏具の購入費、墓碑の建立費用を含めて、その後一般的に執り行われる儀式に関する費用を含むということになります。
葬儀関係費として認定される金額は、自賠責保険では限度額3,000万円の中から支払われ、認定金額は基本的に60万円です。
但し、必要かつ妥当な範囲の出費で、領収書等の立証書類があれば100万円を上限に認定が可能になります。
任意保険基準は各保険会社によって若干の違いはありますが、原則として自賠責保険基準に準拠しており「必要かつ妥当な範囲」として、自賠責保険基準より若干広義に解釈されています。
裁判になったら認められる裁判所の基準や弁護士が介入した基準では、原則として150万円が上限となっていますが、現実の支出額が150万円を下回る場合は、実際の支出額が賠償の範囲となります。
例えば、実際の支出額が180万円の場合は150万円が、130万円の場合は130万円が認められる事になります。
葬儀費用および葬儀関係費用として、150万円以上の金額が支出された領収書などの立証資料が提出されたとしても基本は150万円の認定になります。
被害者側の代理人弁護士から、時々180万円や200万円位の葬儀費用の請求をされる場合は有りますが、150万円を少しでも超えて保険会社が認定してくれたら「儲けもの的な発想」での請求と見受けられ、拒否すると引き下がるのも早い。
葬儀関係費用は、被害者自身や遺族の方の社会的地位などの特性、地域的な慣習や宗派などによって、葬儀の規模や方法が異なる場合があり費用に大きな差が生じるケースがあります。
認定額に上限を設けられているのは、社会的地位等による格差を容認すると賠償や保険の公平感を損なうおそれがあること、交通事故によって死亡という結果が生じなかったとしてもいずれ支出される項目であること、香典収入等によって、遺族の負担が抑えられることが理由になっています。
しかし、150万円以上の葬儀関係費用が一切認められない訳ではありません。
判決の一例として、被害者の社会的な地位から、相応規模の葬儀をせざるを得ない場合等において150万円を超えた請求額の全額が認定されなくても、状況や個別事情によって150万円以上の葬儀関係費が認められたケースもありました。
|葬儀費用として認められない項目もあります!
立証資料があって金額的にも認定範囲内であったとしても、損害とは認められない項目もあります。
「香典返し」や「会葬御礼品」の費用もそのひとつです。
香典は贈与と判断され、その贈与を受けたものに対するお返しと考えられることから、賠償の対象にはなりません。
香典は遺族がその全額を取得し、葬儀費用から差し引かれることはありません。
香典返しを葬儀費用に含めてしまうと、遺族は香典を取得しておいて香典返しを負担しないという二重の取得になる事態が発生すると考えられるからです。
ここで悩ましいのは、加害者側から地域の相場や慣習を超えた金額の香典を受け取った場合です。
保険会社から支払われる「対人賠償保険の臨時費用」に5万円~10万円を加算した様な金額であれば問題はないのでしょうが、これが例えば50万円や100万円となると香典の範囲とはいえず賠償額の一部として看做す事になるかと思います。
また、香典返し費用の他に、死亡された遺族以外の関係者が葬儀参列のために費やした交通費や引出物代、弔問客接待費として精進落としの食事提供なども、香典返しと同様に弔問客に対するお返しの意味を持つことから、葬儀費用には含まれず損害賠償請求の対象とはなりません。
そして葬儀の後の、四十九日法要は賠償の対象になりますが、更にその後の百箇日法要等の費用については、賠償の対象とはならないと解されています。
|死亡による慰謝料を請求したい!
死亡事故に限らず、交通事故によって損害を被った被害者が、精神的苦痛を受けたことに対する補償を慰謝料といいます。
慰謝料にはケガを負って痛い思いをした、或いは入院や通院で時間等を費やしたことに対する傷害慰謝料、ケガが完治しないで障害が残った事に対する後遺障害慰謝料がありますが、事故によって亡くなった被害者に対する死亡慰謝料もあります。
死亡した被害者は、死亡させられたことに対して精神的苦痛を受けたものと推定して、被害者本人の慰謝料請求の権利を認めたものです。
亡くなられた被害者の慰謝料請求権は、遺族などの相続人が相続する事になるので、相続人は加害者に対して被害者本人の死亡慰謝料を請求することができるのです。
また、家族の一員など近い親族を交通事故で亡くした遺族に対しては大きな精神的苦痛を与えた事による「遺族慰謝料」も認められています。
よって、死亡事故が起きた場合の慰謝料は、本人の慰謝料だけではなく父母や配偶者、子供など遺族固有の慰謝料も請求の対象になります。
そして、本人や遺族慰謝料は他の傷害や後遺障害慰謝料と同様に、自賠責保険や任意保険、裁判所や弁護士による支払い基準設定されています。
|1|自賠責保険基準による認定額は?
自賠責保険基準における本人慰謝料額は、他の基準とは異なり一家の柱や高齢者など属性を考慮しないで一律に認定していますが、遺族慰謝料については個別に規定しています。
なお、遺族慰謝料の請求権者は、配偶者と子供、そして父母とされています。
本人の死亡慰謝料は、350万円。
遺族の慰謝料は、請求権者1名では550万円、例えば請求権者が配偶者のみの場合です。
請求権者2名の場合は650万円、例えば請求権者が配偶者と子供一人の場合が該当します。
請求権者3名以上の場合で750万円、これは配偶者と子供二人や父母がいる場合等です。
なお、被害者に小さな子供などの被扶養者がいる場合は200万円が加算されます。
|2|保険会社の任意保険基準による認定額
任意保険における基準額は、属性に合わせた認定をしていますが、絶対額においては裁判所の基準より低額になっています。
本人慰謝料は属性によって、一家の柱である場合は概算で1,600万円~2,000万円位になります。
配偶者や母親の場合で、約1,400万円~1,700万円位。
子供の場合は、1,300万円~1,500万円位。
高齢者では、1,100万円~1,400万円位がそれぞれの目安になると思います。
なお、上の慰謝料は遺族慰謝料も含まれた金額になっています。
|3|裁判所基準(弁護士基準)による認定額
裁判所基準による慰謝料は遺族慰謝料も含めた総額なので、被害者遺族が多数いる場合でも増額されることにはなりません。
被害者が一家の柱である場合は、大よそ2,800万円~3,200万円。
被害者が配偶者や母親の場合、2,400万円~3,000万円。
子供や高齢者の場合で、1,800万円~2,300万円位がそれぞれの目安になろうかと思います。
裁判所において慰謝料総額としての基準なので、被害者の特性や事故状況など個別や具体的な事情によって幅が生じることになります。
例えば、被害者が結婚して3年位の時期に事故で亡くなった事例では、配偶者が幼い子供を女手ひとつで育てなければならなくなった状況等によって、総額3,200万円の慰謝料を認めたケースも有りました。
また、加害者の過失が重大である場合や事故状況が悪質だった、例えば飲酒運転やひき逃げなど重大性や悪質性の程度を考慮して慰謝料が増額される判断もあるのです。
|「逸失利益」や「遅延損害金」の請求も可能です!
交通事故によって被った慰謝料などの損害は金銭賠償という形で行われています。
法律上では、損害金を支払ってもらうための権利について、損害が発生した日から賠償が履行されるまでの期間、法定利率である年5%の遅延損害金の請求が認められていました。
実務的には、保険会社や弁護士を介入させても示談による解決や、裁判をした場合でも和解による解決には、「遅延損害金」は上乗せされないのが一般的です。
訴訟によって損害賠償請求をされる場合は、裁判所基準で解決するのも大きな利点になるのですが、判決をもらう事で「遅延損害金」が上乗せされるのは大きい!と思います。
なお、民法が改正されて2020年4月1日から年利が5%から3%に下がりました。
そして、死亡事故によって被る大きな損害は「死亡逸失利益」でしょう。